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2013年4月23日 (火)

「山場CM」の説得効果   榊 博文(慶應義塾大学)

 筆者らは2002年に、日米英仏における、テレビ番組内のCM呈示タイミングの比較文化的調査を行い、国によりCM呈示タイミングが極めて異なっていること、それはまた各国の放送規制・広告規制・国民性・文化によっていること、また日本においては視聴者がCM呈示タイミング、いわゆる「山場СM」に極めて強い不満を持っていることを明らかにした(1)(2)。
 
 「山場CM」とは筆者の造語で、ドラマ、ドキュメンタリー、ニュース、クイズ番組などで、ここぞという今まさにその続きを見たいという直前に突然に入るCMのことである。近年では、わざわざ場面を盛り上げてからCMに入るという念の入れかたが目立つ。
 
「山場CM」に対する視聴者の態度の変化
以来、「ここぞ」という山場で出すCMが減っているか否か観察を続けてきたが、むしろ増えているとの印象をもたざるを得ず、2002年には見られなかった「映画」上映中にも「山場СM」が、近年はみられるようになってきており、事態は悪化しているように思える。そこで、2010年に、日本の視聴者が「テレビCM」「山場СM」「一段落CM」に対してどのような態度・意識をもっているか再度調査を試みた(3)。
 2002年調査と2010年調査とを比較すると、

CMが嫌い            33.7%から76.7%へ増加
CMでチャンネルを変える    49.2%から64.6%へ増加
CMまたぎ嫌い              78.5%から94.9%へ増加
    (CMまたぎとはCMのあとに前と同じシーンが繰り返されること)
山場CMでフラストレーションたまる   67.5%から85.9%へ増加
山場CMの商品が嫌い          27.9%から91.4%へ増加
一段落CMは好感もてる        41.7%から74.8%へ増加
一段落CMの商品好き         21.5%から80.2%へ増加
(「一段落CM」とは、「山場CM」とは反対に、ストーリーが一段落し、視聴者の気分が落ち着いたタイミングで提示されるCMのこと)
 
「山場CM」によるテレビ離れ
 「山場CM」及び英、仏、米の詳細は原論文を読んでいただくこととして、「テレビ離れ」という言葉の通り、テレビは次第に見られなくなっており、見られているにしても「ながら視聴」、すなわちスイッチがオンになっているだけの時代に入っていると思われる。このことから、テレビでCMを打つことの効果が減少している可能性を指摘できる。「テレビ局は視聴者を馬鹿にしている」と思っている視聴者は少なくはなく、このような人はそもそもテレビを見ない。

  更に、日本のCMは単なる商品告知のCMが多く、しかも1回のCMの時間が15秒と短いため、同じCMを何度も見せつけられ、異なるCMも同様に呈示されるので「CM漬け」にされているという印象を視聴者はもちやすい。CMに対しては「食傷気味」の段階を超え、意識してCMを避けるという「CM離れ」の段階に達している。アメリカでは7割のCMは見たくないと視聴者に思われているそうであるが、日本でも事情は同様であろう。日本において、視聴者が「見たいと思うCM」は一体何本あるのだろうか。  「消費者の媒体別広告評価と行動調査 2009年版」によれば、「テレビ番組の途中でCMが入る時、何をしているか」という質問に対して、男女ともに、6割以上の人が「CMは見ないで別のことをしている」「部屋を離れて別のことをしている」「他チャンネルに変え、CMはあまり見ない」などと答えている(4)。「CM離れ」はここでも明確に示されている。
 
「山場CM」の逆効果
 テレビ番組の低俗化を問題にした和田勉が、「視聴″質″調査になぜ取りかからぬ。このままつづけると視聴率ならぬわが身の″死傷率″をふやすだけだ」と述べたのは10年も前のことである(5)。和田のこの指摘は、今日、テレビCMにも適用されうるものであり、多くの企業経営者が「テレビ広告が最近効かなくなってきた」と述べていることが和田の指摘の正しさを証明している。テレビ局の″死傷率″は急速に進行しているわけではないが、「視聴者を馬鹿にしているテレビ局」にはボディブローのようにじわじわと効いているに違いない。
 
 そもそも、CMとは「商品を買って下さい」「商品名・企業名を覚えて下さい」と視聴者に訴える「説得」であるが、「山場CM」が視聴者のテレビ離れやCM離れを起こしている現状では、CMを打っても説得効果は薄い。広告効果モデルも、AIDMAからネットを利用するAISASに移っており、広告主もテレビ離れを起こしている。
 
 問題の解決策として、CMを番組と番組の間にまとめて出すようにすれば、上記の点は大分解消されるが、番組と番組の間に入るため、逆にCMは見てもらえなくなる。そこで、視聴に耐えるようなCM制作が始まり、ストーリー性を備え、ユーモアがあり、見ていて面白く、あるいは感動したりするようなレベルの高いCMが自ずと生れる。ヨーロッパではこのようなCMが多い。日本のJR東海の60秒CMが視聴者に高い評価を受け、同社の就職人気ランキングがこのCMのあと28位から2位に急浮上したことは画期的な出来事だった。このようなCMが多くなれば、視聴者は好んでCMを見るようになるだろうし、日本のCM文化も向上し、カンヌでグランプリをとるようになるだろう。
 
「山場CM」が起こす大問題
 逆に、現在の「山場CM」を今後も出しつづけると、子供や若者に対して非常な悪影響を及ぼす可能性が指摘される。集中して番組を見ていると、「今まさにそのつづきが見たい」という場面で必ずと言っていいほどCMが入ってくる。毎日毎日このくり返しで、幼い頃から十年も二十年もこのような経験をしていると、大脳の中の集中力をつかさどる回路が強制的に切られてしまい、集中力が継続しない子供・若者が作られる。仕事や勉強などをしている時、集中力が持続しそうになると、無意識のうちに集中力が途切れて、何事にも集中できない飽きやすい人間が形成されるのではないだろうか。しかも、CMあけに前と同じシーンがくり返し出てくると、集中すること自体が馬鹿馬鹿しくなって、集中することさえ嫌になってくる。
 
  以上はひとつの仮説であるが、集中できない日本人や集中力が持続しない日本人を「山場CM」が作り出しているとすると、事態は極めて重大である。集中できない人間が増えるということは、結果的にやる気のない人間が増えるということであり、そのような人間が増えると日本全体の活力が停滞する。自分が何をしたいのか分からない若者たちが増えているといわれているが、集中することがなければ何をしたいのかも分からないのは当然である。
 
  ネットで「山場CM」を検索すれば分かるように、視聴者は「山場CM」に対して、そして「山場CM」を出すテレビ局とそのスポンサーに対して激しい怒りを感じている。テレビ局とスポンサーである企業が話し合う場をもち、本気で「山場CM」の問題の解決に向けて取り組まなければ、既存のメディアの影響力が薄れネットが社会を変える時代になりつつある今日、いつ「山場CM番組不視聴運動」「山場CM商品不買運動」が起きても不思議ではない。
 
追記: 中国では日本のまねをして「山場CM」が出されていたが、私の論文を読んだであろう中国の広告研究者が共産党上層部に進言し、共産党の鶴の一声でドラマの途中でCMを出すことが全面的に禁止された。一党独裁国家ならではの出来事ではある。
 
【引用文献】
(1) 榊  博文・今井美樹・岡田美咲・出羽かおり「番組内CM提示タイミングが視聴者の態度に及ぼす影響(上) 」日経広告研究所報  2003  211号  2-9頁.
(2) 榊  博文・今井美樹・岡田美咲・出羽かおり「番組内CM提示タイミングが視聴者の態度に及ぼす影響(下) 」日経広告研究所報  2004  212号  34-43頁.
(3) 榊  博文「テレビCM、山場CM、一段落CMに対する視聴者の態度」日経広告研究所報  2011  255号  19-26頁.
(4) 「消費者の媒体別広告評価と行動調査 2009年版」 社団法人日本アドバタイザーズ協会2009  78-79頁.
(5) 毎日新聞 2003年 11月16日付朝刊

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コメント

僕はあまり山場CMを気にしないタイプなのですが、皆さん怒っていらっしゃったんですね。
あ、でも、番組内の山場で別の内容が差し込まれて、「さっきの続きは番組の後半で明らかに!!」みたいなのはイラっとすることが多いです。
CMなら時間がわかるし、見なければならないということはないと思うんですけれど、番組の後半って何分からかわからないし、見させられ感がハンパないです。
CMの山場で番組になってしまう山場番組と山場CMを繰り返すことで、不快感MAXの視聴率MAXになる可能性を考えてみましたが、ありませんでした。
テレ東が山場CMをやらずに内容で勝負すると宣言しているみたいですけれど、CMが面白くないから山場CMにしていたということですよね。
榊さんがいうように、CMが面白くならないとなかなか解決しない問題だと思います。
ドラマや漫画は山場で終わるのが普通になっているのに腹が立たないので、CMという短い時間も不快感と関係があるのではないかと思います。
僕は個人的には、番組中に挿入されるへぇーとか笑い声とか拍手が気持ち悪いので何とかして欲しいです。

コメント、ありがとうございます。CMを避けようと皆さん、いろいろな工夫をされているようです。トイレに行ったり、おやつを食べたり、洗濯機を回して次のCMでとり出し、次のCMで乾燥させたり、チャンネルを変えたり、TVのスイッチを切ったり、中には録画してCMは一切見ない、或いはTV自体見なくなった、などです。
 ドラマも日本では山場で終わるものが多いですが、アメリカでは連続ドラマでも一話完結主義です。日本でドラマを見たアメリカ人は、「何故いいところで、つづく、になるのか?」と怒っています。
 テレビ東京が率先垂範し、他のテレビ局も見習ってほしいですね。

>河村さん:ですよね。番組中に挿入される笑い声や拍手は、
昔日本で放映されていたアメリカのシチュエーションコメディの
番組なんかによくあって、「いやだなー」と思った記憶があります。
これはまた別の興味深い問題を含んでいるのかもしれませんね。

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