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2006年4月28日 (金)

三浦朱門『人生の荷物のおろし方-もう一花咲かせる』

 競争人生から早めに「おりて」、人に軽蔑されながらも自分の趣味にいそしみ、人生にもう一つ別の種類の花を咲かせようという本です。気がつけば私も今年で48になるので、これまでたいした荷物は持っていないのにもかかわらず、そろそろその荷を下ろすことを考えた方がよい年齢になってきました(もっとも、人生をおりる前にどこにも登ってすらいないというか、最初から人生を下りていたような気もしますが)。
 本書の特徴は、実に多くの面白い人々についてのエピソードに満ちていることです。これらの数々のエピソードだけでも大いに読者を勇気づけてくれます。
 もっとも、趣味にいそしむといっても、決して個人の努力をないがしろにしているわけではありません。趣味には本当は大変な忍耐と努力が必要なのですが、人は好きなことには苦労を厭わないので気がつかないだけのことです。その意味では本書は本当は人生に対して大変真面目な硬派の本なのです。

(光文社1999年829円+税)

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2006年4月27日 (木)

ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟(下)』

 ようやく読み終えました。ただ、犯罪小説的にはかなりずさんな仕掛けで、現在の科学捜査でなくても、傷口や凶器の確認でミーシャの無罪は証明できるように感じました。それにしても、登場人物のほとんどが精神を病んで、止めどもなくおしゃべりで、衝動的な行動に出るタイプだというのには驚かされます。
 こうした人物造型は西洋近代思想に対するロシアのアレルギー症状を示していると読むこともできるのでしょうが、実は当時のロシアの特にインテリには普通のことだったのかもしれません。というのも、前にも言いましたが、チェーホフのお芝居にも同様の人物がぞろぞろ出てくるからです。思えば15年ほど前にハンガリーで同じコンパートメントに乗り合わせたロシア人兵士も延々と一人でしゃべっていました。熱い人たちです。おまけに熊のような体力があるのだから、かないません。演劇のレベルが高いとは聴いていますが、さもありなんという気がします。しかし、日本では身近にこんな人が一人でもいたら、えらく迷惑することでしょうね。
 ところで、当時のロシアの裁判制度の様子が多少わかって興味深かったです。裁判は陪審制で、一審しか開かれずに判決が確定してしまうというのは、感心できませんが、予備審問で刑事被告人の反対尋問権が確保されていることは、ちょっと新鮮でした。これなら、証人に対する被告人の反対尋問を認めなかったことで有名なあの田中角栄裁判よりも確実に人権が保障されていると言えるからです。帝政ロシアにまで劣っていてどうするって感じです。

(原卓也訳新潮文庫平成16年改版781円税別)

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2006年4月24日 (月)

日下公人『これから10年、光る会社、くすむ会社』

 本書を買ってしまってから、本書が同著者の『社員の幸せを追求したら社長も成果主義も不要になった!』(2002年)を大幅に改訂し、改題したもの、との但書に気がつきました。そもそもネット書店で購入したので、気がつく余地はありませんでした。このへんは店頭で手に取って見ることのできないネット書店の弱点です。ホームページ上で一言注意を喚起しておいてくれたらいいのにねえ。
 しかし、実際に読んでみると、本当に文字通り「大幅に改訂」してあって、一言でいえば、買って損しませんでした。「株主は社員で社員の共同経営、任期制の社長は何もしない、管理費ゼロ」(36頁)という広島のメガネチェーン店「21」は2002年当時よりさらに進化しているようです。
 ところで、こういう創造的で優れた経営をしている会社の話を読むたびに、何とか大学経営に活かせないかと考えてはみるのですが、大学というところは仮に経営学部なるものがあったとしても、経営とは驚くほど無縁なばかりか、しばしばまともな日本語すら読み書き話すことのできないような無能の人間すら紛れ込んでいますので、やっぱ無理かな、という結論に到らざるをえません。これはもちろん教員の話ですが、職員でもいたずらに官僚的になってしまうのが大学という愚者の楽園の実態なのです。自分たちの仕事が教育という名のサービス業だという基本を忘れてしまっています。やはり潰れてみないとわからないのでしょうね。

(ソニーマガジンズ2005年1400円+税)

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2006年4月23日 (日)

日下公人『「人口減少」で日本は繁栄する』

 人口減少で国力が低下するという風説を真っ向から否定する本です。考えてみれば、人口が減れば一人あたりのインフラ利用もゆとりが出てくるわけで、そこでポイントになってくるのが質の向上です。質という点でいうと日本人の感性はむしろこれを創造的にリードしていくことになるでしょうから、未来は明るいというわけです。
 いつもながら、興味深い事実の指摘と新鮮な発想が光っています。たとえば、沖縄の太田知事が訪米してマスコミの批判に答えられず、向こうでは全く取り上げられなかったということは知りませんでした。また、旧ソ連の核兵器を全部買い上げて10年かけて原発で灰にしてしまうというアイデアにも感心させられました。日本の少女アニメがヨーロッパ人をいかに驚かせたかという事実も、言われてみて初めてわかりました。少女が活躍するマンガというのは、彼らにとっては斬新だったのですね。
 読んでいるこちらの頭と心を柔らかくしてくれる本です。

(祥伝社平成17年1600円+税)

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2006年4月21日 (金)

日下公人『「質の経済」が始まった−美の日本、カネの米中』

 いつもながらこの著者の発想の斬新さには驚かされます。この人は天才ですね。本書の前半ではマクロ経済をさらに大きなスケールで鳥瞰するという、いわば「超マクロ経済学」とでもいうべき視点が披露されています。東京オリンピック以降のわが国は1京409兆円ものGDPを創出し、そのうち国家が使ったお金が3000兆円で、さらに、その3000兆円のうち半分以上が無駄であったという指摘はこの人ならではでしょう。
 また、国民の個人金融資産の1400兆円でアメリカの国債を買って7%の利子を得ると、国家予算の額に匹敵する収入が見込まれ、無税国家が実現するという指摘も、考えるだけでも楽しくなってきます。
 本書は、わが国に特有の美意識が国際社会において強力な武器になることを、極めて説得的に語ってくれます。美の創造こそが鍵だというのはその通りだと思います。そしておそらく今後われわれにとって未知の美というものも−食わず嫌いになることなく−新たに発見し、創出しなければならないことでしょう。

(PHP研究所2005年1400円税別)

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2006年4月20日 (木)

ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟(中)』

 ようやく中巻が終わりました。「事件」も起こって、物語がスピーディーに動き始めました。それにしても、やはりお世辞にも巧みな構成の小説とは言えないように感じます。この巻では長老の回想録なんかも挟まれて、退屈ではないにしても、話はどこへ行くのやらと、こちらが不安になるくらいです。要するに、作家が書きたいことをどんどん書いてしまうような書き方に見えますが、これってやっぱり「スケールが大きい作家」ということになるのでしょうね。
 ところでこの新潮文庫版は字が大きくて老眼に優しいつくりです。翻訳も日本語的にさほど違和感なく読むことができます。

(原卓也訳新潮文庫平成16年改版781円税別)

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2006年4月18日 (火)

外山純子『ブダペスト旅物語』

 一応観光案内の本ですが、巻末の参考文献の量からも分かるように、かなりよく調べて書かれていて、文化や歴史についての総合的な案内になっています。現地で著者自ら撮った美しい写真もふんだんに使われていて、見ごたえもあります。記述の間違いも類書に比べるとかなり少なく、ハンガリー語のカタカナ表記もまずまずだと思います。
 ただ、ドイツ語の Ausgleich がアウグストライヒというのは何かの勘違いか誤変換がそのままになったかのどちらかでしょうね。
 また、アディの詩が「横浜たそがれ」の歌詞に剽窃されているというのは、私もそう感じてはいますが、実は裁判では無罪になっていますので、断定するのはちょっと問題ありかも。
 それから、参考文献中に私の恩師の一人である栗本慎一郎の『ブダペスト物語』が挙げられていて懐かしかったのですが、慎一郎が「真一郎」になっていました。
 でもまあ、ハンガリーの人気が出るのに貢献してくれそうな本であることは間違いありません。

(東京書籍2006年1900円税別)

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2006年4月16日 (日)

ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟(上)』

 ようやく上巻を読み終えました。それにしても西洋思想に惹かれながらもアレルギーを起こしたような登場人物が大勢出てきては、それぞれよくしゃべることしゃべること。これって、ロシア的なんでしょうか。思えばチェーホフの芝居の登場人物もかなりおしゃべりでしたね。それにしても、こんなに長い独白で小説を構成するというのは、あまりいい方法とは思えません。ただ、この手法や構成は日本の作家たちには結構影響があったのかもしれないという気もします。
 この小説で思想的に『罪と罰』の世界を超えるものが示されているかどうかはまだわかりませんが、あまり過大な期待をかけないほうがいいかもしれません。スメルジャコフの悪に注目しながら中巻に進みます。

(原卓也訳新潮文庫昭和53年819円税別)

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2006年4月13日 (木)

糸井重里監修『オトナ語の謎。』

 インターネット上での投稿からできた業界用語集。めっちゃ面白いです。ダサさすれすれの解説文もいい味出しています。とりわけ東京の会社ではこうした「オトナ語」が氾濫しているのでしょうね。地方都市ではそれほどでもないような気がします。特に名古屋あたりではむしろ方言の方が自然に流通しているような気もします。
 それにしても、「きんきんにとんとんにしたいのですが、ゴタゴタ続きでばたばたしておりまして、カツカツだというのがいまいまの状態ですから、コミコミとなると無理無理やるしかないんですよねえ・・・」(27頁)といった表現のうちで、「いまいま」と「無理無理」は知りませんでしたが、ともかく意味は分かってしまうのだから、オトナの言語世界は深いなあ。
 今年は留学生でやたらと日本語の上手な学生を教えることとなったので、この本も教材の一部として活用してみるつもりです。

(ほぼ日刊イトイ新聞2003年1,365円)

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2006年4月 7日 (金)

C.S.ルイス『サルカンドラ 別世界物語3』

 火星、金星ときてルイスの三部作最終巻は地球が舞台です。舞台が別世界でないだけに、前半部は異様に緊張させられるホラー小説のような書き方で、最後まで読みたくないなあ、という気がしてもいましたが、後半にルイスならではの強烈なイメージの爆発があり、堪能させられました。やっぱ、すごいです。この三部作を読んで、つくづく良かったと思いました。
 この長編三部作を読む前に同僚から教えられたスメルジャコフという人物造形に興味が出てきて、『カラマーゾフの兄弟』を読もうと思っていたのですが、ルイスの描く悪人の中にもそういうタイプらしきものがありました。そのあたりの異同をようやく確かめられそうです。というわけで、次はドストエフスキーにチャレンジです。

(中村妙子・西村徹訳1987年ちくま文庫700円)

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2006年4月 5日 (水)

C.S.ルイス『ペレランドラ 別世界問題2』

 悪魔の造形がうんざりするほどリアリティーがありました。さすがに『悪魔の手紙』の著者だけのことはあります。そして、悪というのはこちらが勇気を奮い起こして真剣に戦ってみると、意外に弱いということまで書き込まれていて、これもまた説得力がありました。こけおどし、こざかしさ、卑怯な振る舞いとかいったものは、格好のいいものではありませんが、われわれが(特に大学などのようなところで)日々お目にかかっています。こんなつまらないものもまた悪魔の正体の一部であることは確かです。つまらないからといっても、簡単に粉砕できるわけではないところが残念です。
 それにしても、聖書がこんな風に空想科学小説になるというのには、驚かされ続けています。しかし、反キリスト者の目には唾棄すべきイメージと映るかもしれません。
 翻訳の中村妙子の癖もだいぶんわかってきました。要するに、華麗なイメージを演出するために結構漢語を多用して時々はずしてしまうという感じです。成功している部分もあると思いますが、「すべからく」の誤用のように、漢籍が不足している(というよりこまめに辞書を引く習慣がない)ので、無理して背伸びしているようなところがでてくるのだろうと思います。簡単に言ってかっこつけすぎです。
 それから、「子どもらしい」という表現が「子どもじみた」の意味で使われる例を初めて見ました。海外で出された日本語の教科書に載っていて、あれ、と思ったことがあったのですが、これは必ずしも誤用ではないのかもしれません。違和感はもちろんありますが。
 いずれにしても、中村訳は、慣れるとそれなりに読めるので、もう少し辛抱しようと思います。

(中村妙子訳ちくま文庫1987年580円)

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2006年4月 2日 (日)

C.S.ルイス『マラカンドラ 別世界物語1』

 風邪がようやく治ってきましたが、やはり、薬を飲まないと回復に1週間はかかるようですね。そんな中でルイスのSF三部作を読み始めました。科学的知識に関してマニアックなSFファンには必ずしも評判の良くない小説だとも聞いていましたが、私自身その手のファンではないので、科学的には、ま、ちょっと古い感じの設定かという程度の印象しか持ちませんでした。
 そんなことよりも、内容として、また、思想的に、聖書的世界観がこんなに見事な形で反映されていることには、大変驚かされました。ルイスの想像力の細部に至るまでの鮮やかさにはやはり感心させられます。翻訳もあまり良い印象を持っていなかった中村妙子訳ですが、日本語的にはほとんど気になりませんでした。次は第二部です。

(中村妙子訳ちくま文庫1987年560円)

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