『ベルグソン全集 第6巻 道徳と宗教の二源泉』
以前岩波文庫版で読んでいて、今回必要があってそれを再読しようと思ったのですが、せっかくだから恩師の翻訳で読むことにしました。ゼミで長らくお世話になって翻訳者の語彙に違和感がなかったからかもしれませんが、こちらの翻訳の方が私にはよく理解できました。ベルグソンの思考のリズムは独特で、視覚的イメージを(あるいはおそらくフランス語原典では聴覚的イメージをも)次々と重ねていくような文体なので、読者としてはついて行くのがしんどい部分があります。ただ、一方でこの文体はときには論理ではとらえがたい現象をうまくすくいとるのに適してもいて、これが成功しているところでは、他の哲学者の追随を許さないオリジナリティーが発揮されています。
全体の哲学的議論の枠組みはキリスト教哲学、それもカトリックのそれです(教会が公式に認めているそうです)が、ここでは印象的な細部の指摘を以下少々紹介します。たとえば「肉体の死後も生き残る魂というわれわれの観念が、今日では、肉体自身の死後も生き残りうる肉体というイマージュを覆いかくしている」(157-158頁)。また、戦争の原因の一つに人口増加を挙げている(349-350頁)ことも、ベルグソンが現実的な視点を失わない哲学者だったことがわかって、改めて感心させられました。楽観的で明るい哲学です。
(中村雄二郎訳白水社1969年第3版900円)

