ジョン・ロールズ『ロールズ哲学史講義(上)』
このところスクーリング出張や教務関係の仕事が重なって読書のペースが落ちています。通勤電車の中ではほとんどいつも昏睡状態です。夏休みもへったくれもありません。土日なしで働いています。8月に入ったら多少は時間がとれそうですが、それまであと一息です。
さて、そんな中でようやく読み終えたのがこの本ですが、やっぱ、ロールズはただ者ではありません。ヒューム、ライプニッツ、カントをじっくりと読解していきます。ロールズ本人としてはカントに一番シンパシーを感じているような気がしますが、私個人的には彼のヒューム読解に啓発されました。ヒュームにの理性不信の態度を「自然信仰主義」と表現しているところなど、なるほどさすがにうまいこと言うなと思いました(41頁)。こんなに綿密な読解講義をアメリカの大学でやっていたというのはちょっとした驚きですが(私の偏見にすぎませんが)、これをまた丹念にノートにとっていた学生も偉いものだと思います。こうした読解を通じて個性的な発想が出てくるというのは、実は読解の時点ですでに個性的であったということがわかります。
翻訳は全体にわかりやすく練られていますが、あちこちで頻出する「傾向性」という言葉がよくわかりません。原語は不明ですが(原書まで紐解く気はしませんし)、あまり日本語としてこなれた言葉とは思えないので、何か他の訳語を考えた方がいいように感じました。「傾向」ならわかりますが、そんな簡単なことではなさそうです。文脈からすると「志向性」といったようなドイツ哲学に出てくるもっとヘンな言葉を避けようとして作ったのかな、という気もします。
(坂部恵監訳久保田顕二・下野正俊・山根雄一郎訳みすず書房2005年4600円+税)

