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2006年10月24日 (火)

アマルティア・セン『合理的な愚か者-経済学=倫理学的研究』

 「みんながそうするから正しい」という考えのおかしさと、「上を向いて寝ようが下を向いて寝ようが勝手でしょ」という自由をどのように保障するかという問題を真剣に考えると、こういう研究になるのかもしれません。経済学内部でのこの手の専門的議論をたどるのは実際、面倒くさいですが、センの場合はその人柄の良さがそこはかとなくにじみ出てくるような語り口です。きっと、いい人なんでしょうね。
 鋭い論理だけでなく、発想が柔軟で、複雑な議論の脱出口をいろいろと探ることに長けているのがこのセンの特徴のように思います。権利放棄を鍵としてみたり、人間の能力の潜在性に焦点を当ててみたりで、いろいろと新鮮な刺激を与えてくれます。『ヤバい経済学』のレヴィットの才能を擁護したのがセンだという話もうなずけます。方向は同じで、かつ先駆的な業績がこの論文集に収められています(ま、あそこまでハジケてはいませんが)。

(大庭健・川本隆史訳、勁草書房1989年3,000円+税)

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2006年10月22日 (日)

日垣隆『天才のヒラメキを見つけた!』

 TBSラジオの科学番組「サイエンス・トーク」をもとにした編集された対談集です。ゲストは羽生善治、川島隆太、岡野雅行、養老孟司、畑村洋太郎という個性的な5名で、それぞれに読み応えがありましたが、中でもリチウム電池のケースや痛くない注射針を開発した岡野工業の岡野雅行氏は本当に面白い下町のおやじさんです。ビートたけしみたいな下町言葉で実にいい味出してます。笑いの取り方も似ています。このトークのところだけ2度読みました。岡野氏の本も出ているので今度探して読んでみます。

(ワック2006年857円+税)

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2006年10月21日 (土)

日垣隆『父親のすすめ』

 これもまた有益な本でした。私も8歳の子どもの父親なので、いろいろ参考にしたいと思います。「自分では良い親だと思っているが子どもから見たら世間体を気にしているだけの親」になるよりは、時期が来たときに子どもを自立させてあげられる「ダメな親」でいい(186−187頁)という結論には安心させられますし、勇気づけられます。
 印象的だったのは、著者が子どもの担任に「まともな先生」をつけてもらうために、入学前やクラス替えのある時期に、校長室に出向いて「うちの子に阿呆な教師をあてがったら面倒なことになる」と言って「脅す」と、ほぼ確実に学年で最もまともな教師があてがわれる(74−75頁)と述べているところです。なかなか誰にでもできることではありませんが、有効な方法の一つとして覚えておこうと思います。
 
(文春新書2006年710円+税)

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日垣隆『知的ストレッチ入門』

 著者の本にはいつも役立つ情報が惜しげもなく公開されていて、感心させられます。知的生産関連の本として、製品の紹介から心構えまで具体的で、わかりにくいということがありません。今回もクリアチェストやロング書棚、高橋書店のリシェル3といった具体的なお役立ちグッズが紹介されていて、買ってみようかという気にさせられます。
 もっとも、だからといって本書は単純な指南書にとどまるものではなく、随所に著者独自の情報と考察がちりばめられていて、二重にお得です。たとえば、オウム真理教元教祖の心神喪失状況について(153頁)や、動物保護がかえって生態系に深刻な打撃を与えているということ(183頁)についても、おそらく著者の指摘する通りだろうと思います。

 本書は著者の公式サイトガッキファイターで購入しましたが、いつもちょっとしたおみやげがついてくるのが楽しみです。今回は北朝鮮の金日成100ウォン紙幣がついてきました。サービス精神には敬服します。ここのところ苛まれていたという鬱も克服されたそうで何よりです。

(大和書房2006年1300円)

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2006年10月20日 (金)

E・シャルガフ『ヘラクレイトスの火ー自然科学者の回想的文明批判』

  DNAの塩基対合の規則を発見し、現代分子生物学の父とまで称されながら、DNAの二重らせん構造の解明はワトソンとクリックに先を越され、生前あまりマスコミ受けしなかった生物学者の回想録。ウィーン生まれの古典的教養人でもあった著者は現代科学の無目的で度を越した発見競争には当然懐疑的であり、その批判者たらざるをえなかったようです。
 本書では今世紀初頭から対戦間期のオーストリア、ベルリン、パリ、そしてもちろんウィーンといったヨーロッパ諸都市の古き良き時代状況も描かれていて興味は尽きませんが、あんまりすらすらと読める本でもありません。ヨーロッパ知識人がアメリカに抱く不満が凝縮されたようなところがあり、共感できる点は多々ありますが、ここまでペシミスティックだと、アメリカの科学の良い面は気が付かれないままでしょうし、本質的に楽観的な私としても、やっぱりちょっと違うかなという気もしてきます。
 翻訳はあまり読みやすいわけではありません。語学というより日本語の問題だと思います。そして、私とは相性が悪いようです。10年以上前に読書家の友人が本書を読んで面白かったと聞いたので早速買ってはみたのですが、その当時はこの翻訳文体が妙に気になって読み通せず、今週難儀しながらようやく読み終えました。この間上山安敏の本を読んだ勢いが手伝ってくれたようです。ハンガリーのことをやっていると、やはり周囲の諸国や諸都市の状況も押さえていなければならず、ま、私にとっては因果なお仕事のための読書といった感じです。
 それにしても、翻訳者がオーストリアの作家ムジールをムシルと書いたりするのは、確かにオーストリアのドイツ語ではそう発音すると思いますが、一般的でわが国でも通りのよい人名を採用してもらった方が、誤解が少なくなるのではないかと思います。ドストイェフスキーというのもそうです。きっと、ドストエフスキーでは原音に忠実ではなくてだめなのでしょうね。しかし、翻訳者が教養ある先生だということは認めますから、そんなにこだわって見せなくてもいいのにねえ、と思います。

(村上陽一郎訳岩波同時代ライブラリー1990年1050円)

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2006年10月15日 (日)

S・D・レヴィット&S・J・ダブナー『ヤバい経済学』

 これは何とも痛快な傑作です。柄のないところに見事に柄を付ける新鮮な経済学です。「麻薬の売人はなぜママと暮らしているのか」、といった問題が微妙で見えにくい因果関係の連鎖から成り立っていることを教えてくれます。経済学者らしくなく、ツールとしての数学は出てきませんが、この発想や思考法は数学的で、かのフォン・ノイマンに近いものを感じます。楽観的な世界観も共通しています。
 この一見奇妙な経済学はいわゆる行動経済学とは親和性があるように思いますが、扱うテーマが不動産屋とK.K.K.の共通性だったり、学校の先生のズルと相撲の力士の八百長といった問題だったりするので、伝統的アカデミズムからはきっと顰蹙を買っていることでしょう。
 もちろんそんなことは一般読者にとってはどうでもいいのですが、いずれにしても、こんな面白い本が出てくるのは実にうれしいことです。本書の帯には「全米100万部超のベストセラー」と書いてありますが、そうでしょうね。アメリカの読書人もまんざらバカではなさそうです。翻訳も実によくこなれていて読みやすい文章になっています。名訳だと思います。

(望月衛訳、東洋経済新報社2006年1800円+税)

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2006年10月14日 (土)

上山安敏『世紀末ドイツの若者』

 ワンダーフォーゲルの何だか異様に健康なイメージと世紀末ドイツの世相が本書で初めてつながりました。この時代のヨーロッパはそれぞれいろんな方向を向いていましたが、やはり同じ時代の空気を呼吸していて、フランスのアールヌーヴォーはユーゲントシュティルやゼツェッシオンあるいはベルギー象徴派やトランシルヴァニアの建築まで共通しています。ワンダーフォーゲルはこれらに対しては一見反発するような運動ですが、やっぱり一つの大きな流れの一部だということを著者はおそらくドイツ人もびくりするほどの文献を使って論じていきます。いろいろとイメージが膨らむ刺激的な本で、勉強になりました。ゲーテやウェーバーが決闘して顔に傷を残していたなんて話も、本書の中ではなるほど彼らも当時の若者だったのだという脈絡でよく理解できます。

(講談社学術文庫1994年840円)

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2006年10月10日 (火)

ジョン・ロック『人間悟性論下巻』

 ようやく読み終えました。この本は膨大な『人間知性論』のダイジェスト版の翻訳ですが、よくまとまったいい本です。ロックがデカルトから受けた影響とその後カントに与えた影響がよくわかります。いろいろと興味深いところも多く、じっくり考えながら読んでいたのですが、思いのほか時間がかかってしまいました。それと、決して面白くないわけではないのですが、なぜか無性に眠たくなる本です。確かに最近は仕事が殺人的に立て込んでいて、疲労がたまっていることも否定はできませんが、この後別の本を読み始めたらいつもの調子で読んでいる自分に気が付きました。単なる夏バテではないようです。いずれにしても『人間知性論』全四巻はしばらく後回しにしようと思います。

(加藤卯一郎訳岩波文庫1940年刊復刻版1993年570円)

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2006年10月 1日 (日)

ジョン・ロック『人間悟性論 上巻』

 このところスクーリングと普段の講義が重なって週12コマをこなしたりしていて、へばり気味です。電車の中では昏睡状態でなかなか本が読めません。そんな中でようやくロックの上巻を読み終えました。この本だったから時間がかかったという面もありますが、これはいろいろと驚かされる本でした。予想以上にスケールの大きな思想家です。原書に当たってじっくりと研究してみたくなる本です。
 ロックの特徴は常識 common sense の論理で押し通すところにあると思います。ヒュームのような直感的な飛躍はないのですが、かなりの論理好きなので、その鋭さに思わずうならされることがしばしばありました。「実体」概念のいい加減さを論難するところは特に説得力があります。クリスチャンらしく霊体や霊魂といったものにはそれなりの意義を認めて論究するところがあって、好感が持てます。このあたりがヒュームとの最大の違いかもしれません。そのヒュームででももちろん現代の単なる論理主義者とは全く違います。現代思想というのはもっともっと平板で退屈だったりします。自己宣伝は派手ですが、そんなものに若いときはだまされますからね〜。
 この下巻を読んだら、この完全版の『人間知性論』全4巻に進むつもりです。

(加藤卯一郎訳岩波文庫1940年)

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