アダム・スミス『道徳感情論(上)』
感情の問題を綿密に観察し考察した本です。ただ、昆虫とか植物を採集して標本を作るような感じなので、読み通すのはかなり退屈です。もっとも、時々登場する次のような記述には感心させられました。
「われわれは他人の不謹慎と粗野について、かれ自身は自分のふるまいが不適切だという感覚をなにももたないように見えても、赤面するのであって、なぜなら、われわれがそのように道理にあわないやり方で行動したら、みずからどんなに狼狽せざるをえないかを、感じないわけにはいかないからである」(32頁)
大学にはしばしば自分の履歴や業績をごまかして地位を築こうとするクズのような人間が紛れ込むことがありますが、このくだりを読んだとき、ただちに何人かの顔が思い浮かびました。本人たちは自分の嘘と厚かましさが同僚たちだけでなく学生にもバレバレになっていることに一向に思いが至らないようです。講義ができない、日本語が書けない、事務処理能力なんかまったっくないといった輩が、大学教員の顔をして威張りたい一心で学内を徘徊する様子は、外から見たら珍獣の集められた動物園さながらでしょう。もちろん檻の中では嵐が吹き荒れることもしばしばで、大迷惑です。
(水田洋訳岩波文庫2003年860円+税)

