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2006年12月29日 (金)

日下公人『アメリカに頼らなくても大丈夫な日本へ』

 新刊です。いつもながらの日下節は絶好調です。本書では、著者が以前少ししか触れていなかったわが国の知識人の「この国」という言葉遣いについて、司馬遼太郎の「この国のかたち」を例にとり、かなり立ち入った分析と批判をしています。著者によると「この国」という言い方は、知的かつ合理的な印象を与え、格好がいいという一種の戦後の流行だったということですが、活躍中の同世代の評論家の日垣隆や勝谷誠彦でもそうですから、実はちょっとがっかりしていたところでした。ちなみに、私の師匠は絶対「わが国」としか言いませんでしたが、こういう安易な流行に屈しない点は今でも尊敬しています。
 さて、本書も変わらずいろいろと新しい情報をもたらしてくれました。石田梅岩の教えが教育勅語の元になっていたとは、なるほど言われてみればその通りですが、なるほどねえ。
 歴史上わが国は江戸時代の時から先進国だったというのは確かなことですが、その歴史的社会的蓄積を糧にして明治時代以降の世界史の中で人種差別に立ち向かったという画期的事実を確認することも重要ですね。それにしても、わが国が国際連盟に提案した「人種平等規約」を強引に否決したアメリカのウィルソン大統領が、その後ノーベル平和賞を受賞していたとは知りませんでした。
 また、わが国の「輸入力」の威力を強調するのも面白いと思います。確かにこれだけ上得意は世界でもなかなか見当たらないわけで、相手国に「『円建て』でなければ良品を買わない」と言う(181頁)のは賢い戦略かもしれません。中国などは明らかに日本の「輸入力」によって貿易黒字を稼ぎ出しているわけですから。
 ほかには、ロシア国内で出てきた北方四島返還論の紹介もあり(187-188頁)、時代が動いてきていることがわかります。
 凝り固まった頭をほぐしてくれる本です。

(PHP研究所2006年1,400円税別)

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2006年12月27日 (水)

池田晶子『人生のほんとう』

 いつものようにとことん考えて考え抜いている哲学の巫女の面目躍如です。講演原稿が元になっていて読みやすいのですが、内容には深いものがあります。考える私から私が消えて「考える」だけが残っていくと、一種のトランス状態に入り、何も怖いものがなくなるようです。著者としては禅仏教に一番親近感を抱いているようで、確かにこれは禅の志向するところと同じなのかもしれません。
 また、こうして他者の問題が「考える」ということに収斂されてしまうと、やはりキリスト教的世界観とは相容れないものになってしまうのも当然の成り行きかと合点がいきます。私は後者に惹かれる方なので、ちょっと自分とは違うなあと思いながらもやはり楽しんで読んでいます。この独特の思考する文体はやはり魅力的です。大学教員兼業の哲学者というより哲学の輸入業者では決してこうはいきません。筆一本で哲学できることを証明してくれる現代日本の希有な哲学者です。
 なお、108頁の「アニミズム」が「アミニズム」になっているところがあるのは著者の本にしては珍しい誤植です。

(トランスビュー2006年1200円税別)

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三浦しをん『格闘する者に○(まる)』

 先日読んだ駅伝小説『風が強く吹いている』が素晴らしかったので、これも読んでみました。面白かったです。主人公のおねえちゃんが想像の世界を飛ぶところの描写なんかが勢いがあっていいですね。読後感の爽やかな青春小説です。ときにはあり得ないような設定でもリアリティーを獲得しているのはやはり作者の文体の力でしょう。登場人物もそれぞれに個性的で魅力的に描かれています。会話も見事。大学生の頃は自分もこんな感じの時がありましたねー。それから、就職の面接官として登場する大手出版社の、いけ好かない屑野郎たちの描写も見事です。いるんだよね、ああいう感じの自分を優秀だと勘違いした本当は無能な奴って。
 それにしても、これがデビュー作というのだから本当に実力のある作家ですね。他の作品もこれからフォローしていくつもりです。

(平成17年新潮文庫476円税別)

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野矢茂樹『入門!論理学』

 論理学の入門書として実によくできた本です。昔、私が公務員試験の知能問題を指導していたときには、この論理学を題材にした問題が必ず含まれていたので(今もそうですが)、ちょっと懐かしい気がしました。公務員試験の問題でも、ド・モルガンの法則を駆使しないと解けない問題が出るのですが、本書ではこの法則の有効性もわかりやすく示されていて、「あ、そういうことだったのか」と腑に落ちました。論理学の本にしては珍しく縦書きで、論理式を使わないように工夫されている本なので、素人には助かります。
 また、自然数論の不可能性を証明してしまったことで有名なゲーデルは、その前年の23歳の時に述語論理の完全性も証明していたということを知りました。述語論理というのもなかなか面白い世界ですね。論理学の深さがちょっとだけわかった気がしました。

(中公新書2006年740円+税)

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2006年12月22日 (金)

宮田三郎『地方自治法入門』

 来年度の授業の予習のために読みました。読みながら意外に知っていることが多いなと思ったら、昔、行政書士を受験するときに多少勉強していたことを思い出しました。
 行政書士といえば、考えてみたら、今の私の仕事が留学生のお世話ということもあり、ある時期には申請取次行政書士の資格申請をして入国管理関係書類の申請代行業務も行なっていたのでした。今の仕事を辞めて独立開業してもやっていけるかもしれません。ウソウソ。
 というわけで、この法律には一概に無縁というわけでもなかったのですが、やはりふつうはマイナーですね。321条からなる条文は興味本位で読めるような代物ではありませんし、本屋さんに行っても行政書士試験か公務員の昇進試験対策用の解説書や問題集がほとんどです。
 本書はその膨大な条文の内容がコンパクトにまとまっていながら、著者の主張もしっかりかかれていて、単なる条文解説に終わってはいません。判例の挙げ方も適切で通読しやすくなっています。来年度の学生には判例を検討してもらうような授業を考えています。
 ところで、最後の頁に「贅言」として「法律体系の美学は、地方自治法において、崩壊したというべきであろう」(241頁)とあります。確かにやたらと枝分かれした条文が頻出し、245条のように「・・・要することとすることのないようにしなければならない」とか「・・・従わなければならないこととすることのないようにしなければならない」といった表現が出てきます。やっぱひとこと言っておきたかったんでしょうね。著者に同感しないわけにはいきません。教科書としても使いやすそうですが、値段がちょっと高いかな。

(信山社2003年3200円)

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2006年12月19日 (火)

日垣隆『すぐに稼げる文章術』

 この道のプロからの有益な助言に満ちた本です。最初に「文章を書くということは、犬小屋を建てるようなもの」と絶妙の比喩が出てきます。最終的に使いやすい犬小屋を完成させるというのは、確かに文章と似ています。悪文の見本も挙げられていて、某東大教授なんかは論旨が驚くほど支離滅裂だったりするのが笑えます。もっとも、私は周囲の先生たちのもっと強烈な文章で慣れっこですが。
 それにしても著者はサービス精神にあふれていて、手の内を全部公開しているようにさえ見えます。このサービス精神と思いやりが読者に対して十分に発揮されたとき、はじめて稼げる文章になるのでしょうね。私も次の本に向けて原稿をまとめているところですが、まあ、稼ぐのは難しいとしても、やはり版元にはなるべく迷惑をかけないようにするために、「学者的悪文」だけは書かないようにしたいと思っています。

(幻冬社新書2006年720円+税)

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2006年12月16日 (土)

ヒルティ『幸福論(第三部)』

 ようやく第三巻まで読み終えました。キリスト教世界観のエッセンスのような巻でしたが、とりわけ精霊について具体的に書かれていて勉強になりました。以前から聖書の中に精霊に満たされて光り輝いている人物が登場するにもかかわらず、それがどういうものかはよくわかりませんでしたが、本書では「それは善への強い力である」とされ、「この霊を宿していることは、この力を感ずる他人の態度から分かるばかりではない。なお、人間や事物の真相を見抜く全く別の力が与えられることでも分かる。また同様に、精神はもとより身体の全組織をも、喜びと力強さとをもって一瞬のうちに満たしうるということでも、それは分かるのである。疑いもなく、このような生命を生みだす霊は、われわれのうちに宿って死を克服し、新しい生命を可能にする」(342頁)ということになります。
 どうやらヒルティには精霊がはっきりと見えたのでしょう。「この霊をやどす人はむしろ『平凡な』あるいは熱のない人間に見えかねない。教会生活で人目に立つ華やかな人物で、むしろ精霊を授かっていない場合が非常に多い」(300頁)と言っていることからもそれはわかります。穏やかな語り口ですが、しばしば辛辣なことを言う人です。実は熱い人なのです。
 
(草間平作・大和邦太郎訳岩波文庫1965年620円)
 

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2006年12月12日 (火)

養老孟司『無思想の発見』

 日本人は無思想という強固な思想または信仰を有しているということを懇切丁寧に論じています。著者の文章と論理には独特の切れとスピード感があるので、そこはかとない快感が得られます。ただし、この本は日本人が真正面から取り組もうとしない無思想、無宗教の問題に取り組んでいるため、著者自身もあとがきで「売れないと思う。ますますヘソが曲がってきたからである」と述べています。確かに『バカの壁』ほどには売れないかもしれませんが、著者のこのヘソの曲がり具合は結構気に入りました。『バカの壁』も今までは敬遠していましたが、そのうち読んでみましょう。

(ちくま新書2005年720円+税)

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2006年12月11日 (月)

ヒルティ『幸福論(第二部)』

 以前第1部を読んで、第2部を読む気でいながら今まで間があいてしまいました。で、やっぱ、読んでみると珠玉のフレーズの固まりでした。これだけのことを観察して、考えて、正確に言葉にできるというのはとんでもなくすごいことだと思います。中でも特に何処にでもいるくだらない人間への対処の仕方が参考になります。「彼らについて語るのをやめよ。ただ見て通りすぎよ」というダンテの地獄編から引用しながらの考察が印象的でした。「悪人の幸福」は「それを見ることが重大な信仰の試練であって、われわれはそれを断固として克服しなければならない」(232頁)とあります。私の周囲にもこうした有象無象の彼ら(彼女らも含む)がうようよしていますが、やはりただ見て通りすぎるようにしたいと思います。試練と思えば腹も立たないという境地を目指します。

(草間平作・大和邦太郎訳岩波文庫1992年620円)

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アダム・スミス『道徳感情論(下)』

 このところ更新をしようと思ったらサーバーがメンテナンスの時間だったり、スクーリング出張があったりでご無沙汰していました。この間ようやくこの本の下巻を読み終えましたが、前半ほどではないにしても、記述が平板で、ついに面白くなることはありませんでした。重要な指摘は少なからずあるのですが、読み物として面白くないのです。法哲学的には第6部第3篇2章「理性を明確な是認の原理とする体系について」や、これ以降のいくつかの箇所が重要だと思います。
 最近勘違いして以前持っていたのにもう1セット(上下巻)注文して買ってしまいました。私を知っている人でこの本が欲しい人がいたらご連絡下さい。進呈いたします。欲を言えば手渡しできる人がいいですね。

(水田洋訳岩波文庫2003年860円+税)

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