日下公人『アメリカに頼らなくても大丈夫な日本へ』
新刊です。いつもながらの日下節は絶好調です。本書では、著者が以前少ししか触れていなかったわが国の知識人の「この国」という言葉遣いについて、司馬遼太郎の「この国のかたち」を例にとり、かなり立ち入った分析と批判をしています。著者によると「この国」という言い方は、知的かつ合理的な印象を与え、格好がいいという一種の戦後の流行だったということですが、活躍中の同世代の評論家の日垣隆や勝谷誠彦でもそうですから、実はちょっとがっかりしていたところでした。ちなみに、私の師匠は絶対「わが国」としか言いませんでしたが、こういう安易な流行に屈しない点は今でも尊敬しています。
さて、本書も変わらずいろいろと新しい情報をもたらしてくれました。石田梅岩の教えが教育勅語の元になっていたとは、なるほど言われてみればその通りですが、なるほどねえ。
歴史上わが国は江戸時代の時から先進国だったというのは確かなことですが、その歴史的社会的蓄積を糧にして明治時代以降の世界史の中で人種差別に立ち向かったという画期的事実を確認することも重要ですね。それにしても、わが国が国際連盟に提案した「人種平等規約」を強引に否決したアメリカのウィルソン大統領が、その後ノーベル平和賞を受賞していたとは知りませんでした。
また、わが国の「輸入力」の威力を強調するのも面白いと思います。確かにこれだけ上得意は世界でもなかなか見当たらないわけで、相手国に「『円建て』でなければ良品を買わない」と言う(181頁)のは賢い戦略かもしれません。中国などは明らかに日本の「輸入力」によって貿易黒字を稼ぎ出しているわけですから。
ほかには、ロシア国内で出てきた北方四島返還論の紹介もあり(187-188頁)、時代が動いてきていることがわかります。
凝り固まった頭をほぐしてくれる本です。
(PHP研究所2006年1,400円税別)

