« 日下公人『名誉ある孤立の研究』 | トップページ | ジャック・プレヴェール、エルサ・アンリケ『おりこうでない子どもたちのための8つのおはなし』 »

2007年5月 2日 (水)

渡辺千賀『ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない)』

 噂に聞くシリコンバレーの人びととその暮らしぶりが、独特の軽妙な文体で活写されています。それにしても、シリコンバレーというところが、アライグマが飼い猫を襲うような田舎だとは知りませんでした。世界中のオタクが集まって、自己の能力だけを頼りに熾烈な競争をしているところという印象はそのとおりですが、もうちょっと都会かと思っていました。でも、掟がうるさい共同体的な田舎ではまったくなくて、みんなが薄い付き合いの中で、家族を真の友人としてばらばらに暮らしているという、不思議な場所のようです。
 しかし、ここにいるオタクはアウトドア派で相当な体力の持ち主でもあって、その嗜好と体力は、頭を激烈に使う競争とのバランスをとり、あるいはその下支えをしているような感じです。もっとも、オタクとアウトドアというのは確かに相性がいいところがありますね。
 そういう彼らもまた、レイオフあるいはキャリアアップを繰り返していくのですが、その際に鍵となるのが薄く広い付き合いだというのは面白いと思いました。いい仕事の話は必ずしも深くて濃い付き合いをしている友人たちからもたらされるのではないという経験則は、最新のネットワーク理論によってもわかってきていることですが、やっぱりそうかという感じです。
 本書では、人間の感情というものの持つ高度な情報処理能力についても言及されていて(「直感を大事にする」175頁)、人間が頭を使うということについて、また、組織に頼らない仕事をするということについて、いろいろなヒントが示唆されている本でもありました。
 毎日のように組織(のそれも一部のとんでもないバカども)に振り回されている日本のサラリーマンにとっては、おとぎ話のようにも見えるかもしれませんが、それでも視界が開け、気分が多少楽になること請け合いです。
 それにしても、日本のダメ組織が決まって旧日本軍のように組織のトップグループから崩れていくのはなぜなのでしょうね。官公庁でも企業でも大学でも、官僚化したところは例外なく、組織のエグゼクティブグループが、率先して汚いことをし、あるいは単に目立とうとしてバカなことをしたりしながら、よってたかって組織を食い物にしています。
 おそらく人間という生き物は余計な期待をしないでその生き方を見つめると、こんなところが普通なんでしょう。しかし、だからこそ、普通でないエリートを養成する必要があるのだと思います。公務員試験や入社試験、あるいは大学入試合格当時の受験秀才を、その時点で思い上がらせるのではなく、そこからさらに鍛え上げて一人前の真のサムライ(女性ももちろん可)にするシステムを本気で考える必要がありそうです。

(朝日新書2006年700円+税)

|

« 日下公人『名誉ある孤立の研究』 | トップページ | ジャック・プレヴェール、エルサ・アンリケ『おりこうでない子どもたちのための8つのおはなし』 »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。