« 石井敏他編『異文化コミュニケーション・ハンドブック』 | トップページ | 原田尚彦『〈新版〉地方自治の法としくみ』 »

2007年5月22日 (火)

曾野綾子『貧困の光景』

 世界の貧困の現場に立ち会ってきた著者ならではの本です。私は痩せすぎて浮腫が出るというのは見たことがありませんが、今日の日本においては、そのことを知っておくだけでも大事なことだと思います。途上国では上は大きく盗み、下は小さく盗み、全体に貧困の中に沈没して出られなくなるという、恐怖の悪循環に呑み込まれているところが少なくないようで、現代日本の状況がこうならなかったのは、ご先祖様たちのおかげだろうと思われます(上は大きく盗み続けているようですが)。
 強烈な現場の話とともに印象に残ったのは、次の箇所です。
 「アラブ世界において最も完成された人間像として人々の心を惹きつけた三つのものは『武人、詩人、予言者』であるという。結果的には、これらの人々の天賦の才能は、すべて物質の少ないところで伸びる。日本人はこのうちのどれ一つとして人間の理想としたことはなかったし、また将来もないであろう」(208頁)
 「荒野が否応なく人間を創り、人間の発見につながるという一方の事実と、潤沢がしばしば人間性を腐敗させ、崩壊させるという皮肉に、私もまた正直なところ、いまだにうまく適応できないでいる」(211頁)
 そうなんですよ。昨日は交差点で車に乗ったちんぴら同士が運転のトラブルで睨み合っていました。互いに虚勢を張り合って滑稽でしたが、いい車を持っているのだから少なくとも貧困と飢餓からは無縁そうでした。昨今の異常な快楽殺人にしても、天降り役人にしてもしかりです。いろんなことを考えさせられます。「よく生きよと」ソクラテスが言っても、人びとに伝わらなさそうなきょうびの世の中になってしまいました。今さら驚くまでもないことですが、そんな話は大学のようなところでもいっそう通じません。特に教員には。

(新潮社2007年1300円税別)

|

« 石井敏他編『異文化コミュニケーション・ハンドブック』 | トップページ | 原田尚彦『〈新版〉地方自治の法としくみ』 »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。