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2007年5月29日 (火)

池田晶子『人間自身―考えることに終わりなく』

 本書が彼女の遺作となってしまいました。しかし亡くなる直前まで、自らの病のことには一切触れず、健筆をふるっていたのはすごいことです。本当に、死ぬのが怖くなかったのでしょうね。喪主がご主人だったと記憶していますが、そういえば、ご主人のことも、彼女の本にはついに一切出てこずじまいでした。こういう女性と結婚する男性も、なんだか相当にスケールが大きいナイスガイなのではないかと想像してしまいます。
 というわけで、本書も以前と何ら変わることなく、著者は世の中の森羅万象の本質的なことだけを考え続けています。そして、しっかり哲学的に考え抜かなければ表現できないような決めぜりふも随所に残してくれました。たとえば、
 「道徳、法律または宗教、そんなものに善悪の判断を委ねてしまえばラクである。しかし判断の放棄とは自由の放棄である。人生の自由を失いたくないのなら、自ら内なる善意を問い続けるしかないのである」(136-137頁)とか、
 「人がロゴスを獲得するのは、したがって、その正しさを主張するべき自分というものを捨てることによってのみだ。・・・言葉をして語らしめることにより、人は自ずから正しい人になるのである」(87頁)といった具合です。それにしても、なかなかこうは書けないものです。感服します。もう彼女のエッセーが読めないのは本当に残念です。
 あらためてご冥福をお祈りします。

(新潮社2007年1260円税込)

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