« 2007年5月 | トップページ | 2007年7月 »

2007年6月27日 (水)

野口旭『グローバル経済を学ぶ』

 経済についての広く流布している誤った通念を、専門家のオーソドックスな立場から矯正してくれる本です。反グローバリズムの俗説に対する批判でもあります。リカルドの比較生産費説や貿易収支と経常収支の関係といったことがらが、教科書の中だけではなく、現実の経済現象の中で確認できるのが、いつもながら新鮮です。次の二つの引用だけからでも、俗説との違いがよくわかるのではないでしょうか。
 「貿易によって衰退してしまうような国際的にみて効率の悪い産業=比較劣位産業が国内で縮小し、その代わりにより効率のよい産業=比較優位産業が拡大し、その比較優位財の輸出によって比較劣位財を海外からより安価に輸入できることこそが、まさに一国にとっての貿易利益である」(88頁)
 「日本の経常収支が黒字になるのは、日本の居住者全体がその支出を所得以下に抑え海外への貯蓄供給=投資を行った結果であり、アメリカのそれが赤字になるのは、所得以上の支出を行って海外から借金をした結果なのです」(175-176頁)
 これだけでは凝縮されすぎていて、わかりづらいかもしれませんが、そのときは、本書を読んでください。当然ですが、本書ではこれらのことが、もっと具体的かつわかりやすく述べられています。
 ちなみに前著『経済対立は誰が起こすのか』(1998年ちくま新書)とは重なるところもありますが、そちらは絶版にして、本書がその続編またはタイムリーな改訂版として生まれ変わったようです。学生に勧めたい好著です。

(ちくま新書2007年720円+税)

| | コメント (0)

2007年6月26日 (火)

日下公人『こんなにすごい日本人のちから―だから、日本の未来は明るい』

 いつもながら大胆な発想とアイデアに満ちた本です。ただ、連載コラムの短い文章を集めたものなので、ヒントを示すだけにとどめてあるところも少なくなく、もうちょっと詳しく書いてほしいと思うことしばしばでした。ま、続きは自分で考えます。
 本書の中にもいつもながらいい話がたくさん含まれていますが、「蒲生氏郷の看破力」(109頁)が個人的には印象的でした。かつて松阪市を訪れて、そのユニークな街作りに功績があったのが氏郷だと聞いていたので、気にはなっていましたが、やはりそうした人物にふさわしエピソードが残っているものですね。氏郷は講談では人物はともかく、頭のほうはあまりいい人として語られてはいないようですが、やはり本書にあるように「智も勇も人物も格段にすぐれた武将だったらしい」とあって、わが意を得たりの感があります。これからも注目しておくつもりです。
 他にも、アインシュタインが、エネルギー量は質量×光の速度の自乗という公式を発表したとき、質量はエネルギーになるということに気がつかず、あとから人から言われて、たいそう驚いたという話は、いろいろなことを示唆してくれます。
 面白い提案としては、麻雀を学校で必須科目にし、麻雀の試合を公務員試験にせよ、というのがあります(94頁)。少なくとも、これを実行すると、わが国にも良い外交官が育ってきそうな気がします。

(ワック株式会社2007年1400円+税)

| | コメント (0)

2007年6月23日 (土)

日下公人『お金の正体 日本人が知らないお金との付き合い方』

 お金の背景には文化が控えていて、その文化の厚みが実はわが国はかなり厚いものだから、外国の道徳も感情もないハゲタカファンドを理解できないというか、理解したくない、ということがよくわかります。こうなると鎖国をするか、世界を説得するかしかなくなりそうですが、本書は後者の可能性を探る本だとも言えるかもしれません。
 旧大蔵省や金融庁の無責任さやBIS規制のいい加減さの指摘も相変わらず鋭くて、勉強になりますが、本書では、著者の生い立ちに触れられていて、興味を惹かれました。第二次大戦後の焼け野原に転がっていた電気ストーブをリサイクルしたり、パン焼き器や炊飯器やストーブを手作りで作って隣近所に売っているような中学生だったなんて、へぇー、というか、やっぱり普通ではなかったんだと納得したりしています。著者がそのまま電気屋になっていたり、アカデミズムの人になっていたりしたら、少なくとも読者はこんな面白い本には出会えなかったことでしょう。
 それでまあ、日本人は結局は「お金の価値より人生の価値の方が尊いに決まっている」(229頁)と再確認するところから始めるしかなさそうです。しかし、「世の中で金と女は仇なり 早く仇にめぐりあいたい」(62頁)という古典的な戯れ句は気に入りました。日本文化、とりわけ庶民のそれは奥が深いですね。

(KKベストセラーズ2007年1500円+税)

| | コメント (0)

2007年6月21日 (木)

福永信『コップとコッペパンとペン』

 実に不思議な短編小説集です。特に最初の短篇の展開の早さには目が回ります。著者はヘンなものを書こうとして、そのことにのみ成功しています。中身やメッセージがあるわけでもなく、美しいものを求めているのでもなく、しかし、文章はうまくて、何だかおかしな世界が開けているのです。内田百閒のようでもあり、カフカのようでもあり、でも、どこで読んだ感じでもない著者独自の世界です。ひょっとして著者は、ただもう奇妙な世界を書きたくて書いているのかもしれません。もはや、「本当は内容のあるところを見せてやろう」といったあざとさなんかも通り越しているように感じられます。
 ひょっとして、これをわかるのが文学通だとでも言いたげな評論家がいるかもしれませんし、それはバカの変種だとしても、そうした読みすらも拒否するようなところがこの作品にはあります。よくわからない、変わったものを読みたいという人にだけはお勧めできます。面白くないわけでもないが、面白いわけでもないという、ヘンな本です。

(河出書房新社2007年1400円)

| | コメント (0)

武田邦彦『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』

 環境問題のウソが科学的に検証されています。通念と余りにも違うことが多いことに驚かされます。ペットボトル再利用のウソ、ダイオキシン猛毒説のウソ、森林が二酸化炭素を吸収するというウソ、地球温暖化で海水面が上昇するというウソなど、言われてみればもっともだったり、データに基づけば確かにそう言うしかないという事実の指摘は重要です。
 そういえば、知人でドイツのリサイクルを研究・調査した人が言っていましたが、最終的にドイツでは処理しきれないゴミは森の中に穴を掘って埋めているとのことです。まだ話題になってはいませんが、地下水の汚染が心配されます。わが国がモデルにしている先進国でもこのていたらくですから、事業全体を見直すべきでしょう。それにしても、わが国は戦前も戦後もドイツの真似が好きですね。
 しかし、同僚の先生から聞いたところによると、環境保護団体の人びとの間では本書はおかしいということになっているそうです。思想に合わない事実は存在しないという、かつてのスターリン時代の社会主義圏のような感じです。ウソがまかり通るのはウソを信じたいからでしょうが、それはすでに狂信の域に達しています。
 環境を破壊している政府が利権談合共産主義で、それに反対することだけが生き甲斐の団体がスターリン主義的全体主義だったら、 同じ穴のムジナです。両者のメンタリティーには違いを認めることはできません。
 仮に、両者がひそかにウラで手を握りあって、政府の補助金を山分けにしていたとしても、もはや今日の人びとにとっては何ら驚きではないでしょう。ただ、この世界での「ベルリンの壁」は左右両極からの二重構造になってしっかりとお互いを支え合っています。果たして崩壊する日は来るのでしょうか。
 しかし、本書が売れているということはその日が近いことを物語っているのかもしれません。ふつうの人たちも騙されてばかりではありませんから。

(洋泉社2007年952円+税)

| | コメント (0)

2007年6月18日 (月)

五十嵐らん『「人」を食う中国人 割を食う日本人』

 同著者の『世にも不思議な中国人』の続編です。何だか、以前よりさらにエグさがパワーアップした感じです。何よりウンコやトイレの話が印象的です。そこまで汚いのかって感じです。それにしても、人間のそれが道ばたに平気で落ちていたりするというのは、あまり想像したくありませんが、香港ディズニーランドの惨状を耳にすると、やっぱりそうなんだろうなと納得します。
 もっとも、中国人に対する著者の観察は鋭いだけではなく、愛情にあふれてもいるので、読後感は実に爽やかです。本書自体、異文化交流の良いテキストになっています。来年の授業科目の参考図書に指定しましょう。また、日頃留学生別科で中国人留学生を相手にしている身としては、教わるところや共感するところが多い本です。こちらで起こるトラブルの原型がすべて揃っているといってもいいくらいです。なお、本書では後半に恐るべき韓国人も登場し、日中韓の外交問題の縮図さながらです。わが国の対中外交への注文も著者ならではの切り口で説得的です。
 ただ、一点、107頁の1行目の「すべからく」を「すべて」の意味で使っているところは気になりました。文章の上手な著者だけに残念です。

(ワニブックス2007年1143円+税)

| | コメント (0)

2007年6月15日 (金)

西崎文子『アメリカ外交とは何か—歴史の中の自画像—』

 アメリカの自分勝手な外交手法が歴史の中で確認できる便利な本です。最近は大義が立たなくて、キレた自閉症のような感じになってきていますが、その行動パターンは昔から変わらないようです。岸田秀はこれを強迫神経症と診断していましたが、自分の犯した過ちを正当化するために、また同じ過ちを繰り返すという悪循環に陥っているのは否定しようがなさそうです。本書は簡略なアメリカ史にもなっているので、そうした外交の当時の社会背景がわかります。リースマンやミルズといった政治学の名著の背景もわかって勉強になりました。
 ただ、気になったのは、特に前半のいくつかの章の、どことなくタイムやニューズウィークの記事みたいな話の展開と、62頁の「正鵠を得た」という表現です。前者はアメリカで学位を取った人なので、演出に凝った結果、そうなるのかなという気もしました。後者は辞書的には誤用ではありませんが「的を得た」というのと同じ意味になりそうで、私は感覚的に気持ちが悪いと思っています。
 なお、本書に出てこないアメリカの残虐行為についての話はたくさんあるはずなのですが、本書で取りあげられた事実は、けっこう表面的な印象があります。アメリカの文献ばかりを使っていると、やはりその点で限界があるのかもしれません。

(岩波新書2004年780円+税)

| | コメント (0)

2007年6月 9日 (土)

熊野純彦『西洋哲学史ー近代から現代へ』

 古代・中世篇に続いての力作です。感想としては同じようなものですが、やはり、どちらかというと同業者向けに書かれている感じがします。門外漢にはスピノザの「実体」なんてのがいきなり登場すると面食らうでしょう。著者は、波多野精一の時代の哲学史とは違って、今の個別研究の進んだ時代の哲学史を意識したそうですが、東大の先生ですから、やはりプレッシャーやら使命感で大変な思いをされているのでしょう。ただ、それならいっそ、朝永三十郎の『近世における「我」の自覚史』のような本を意識して、独自の歴史観を示してもらえたらいいのにと思いました。本書では、近代人の不安が何に基づいているのかというあたりは、あまりはっきりとは書かれていなかったようです。ひょっとして著者本人が構想中かもしれない次回作に期待したいと思います。
 ところで、私もいつかこうした本にはほとんど出てこない思想家たちの評伝と思想をまとめた本を書いてみたいと思っています。『裏通りの近代哲学史』という感じになると思います。登場人物はホームページで取りあげているような思想家にオルテガやサンタヤナ、ヴェイユ、ホッファーなんかを加えたものになることでしょう。

(岩波新書2006年820円+税)

| | コメント (0)

2007年6月 5日 (火)

熊野純彦『西洋哲学史 古代から中世へ』

 本書は原典からの引用がきっちり示してあるという点で、類書のない哲学史になっています。アウグスティヌスとデカルトの共通点など私が以前から気になっていたことも、しっかり指摘してあって、いろいろと勉強になりました。私はなじみのないスコラ哲学なんか今後とも原典を読んだりしないと思いますが、へぇー、そうなんだと、わかったような気にさせられます。なにせ哲学史ですから、わかりやすい記述ばかりではありませんが、本棚に置いておくと便利です。
 ただ、気になったのは、ところどころデリダやフーコー、ドゥルーズなんかについての言及があることで、今ならまだいいけれど、10年たつと、だれ?ってなことになるのではないかと心配になります。ドゥルーズはスコトゥス解釈なんかしているので、出てくる必然性がなくもないのですが、これを「創造的な誤解」(246頁)と曰ったりするのは、正しい指摘だとしても、語り口がポストモダン的で、ちょっと興醒めです。この著者もわが国のことを「この国」と書く人なので、ポストモダニズムとは相性がいいのでしょう。浅田彰とも近い世代ですしね。
 ま、ともかく次に近代篇を読んでまた書きます。

(岩波新書2006年820円)

| | コメント (0)

2007年6月 1日 (金)

穐吉敏子『ジャズと生きる』

 本書は自宅の本棚に積ん読状態にあって、気がついたら10年たっていました。いい本でした。穐吉敏子のビッグバンドのコンサートには一度行ったことがあります。大男たちを指揮する姿が格好良く、ソロもハートがこもっていました。ジャズ界で女性で日本人というハンディを乗り越えてきた著者の人生は、実際闘いの連続ですが、そのことを美しくまとめずに、失敗も悪事も包み隠さず書いていて、実に正直な人だと思います。もう一度彼女のオリジナル曲を聴いてみたくなりました。今CDでどれくらい入手できるでしょうかね。
 そういえば、岡崎で二年ほど前にコンサートがあったのに、行けなくて残念でした。ジャズピアニストは年齢なりにいい演奏をする人が多いので、今の彼女もきっといい音を出しているのではないかと想像します。

(岩波新書1996年650円)

| | コメント (0)

« 2007年5月 | トップページ | 2007年7月 »