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2007年10月30日 (火)

朱川湊人『いっぺんさん』

 著者の小説は初めて読みました。直木賞作家とは知りませんでした。表題作「いっぺんさん」は生涯に一度だけ願いが叶う山奥の祠のことで、すてきな短編です。そこまで読んだところで著者紹介を何気なく見ていたら「ノスタルジックホラー」の名手とあり、あれっ、ホラーでもないのになあ、と思いました。しかし、そのほかの作品は確かに恐怖小説で、話の展開が予想通りのところもありますが、結構怖かったです。
 本書のそれぞれの作品がノスタルジックなのは、わが国に民俗文化が色濃く残っていた時代に遡るからなのですが、実際、あのころの怖さは都市化が進んだ今ではずいぶん薄れてしまっているのかもしれません。宮崎アニメの世界では健在ですが。
 最後の「八十八姫」はいわゆる人柱の話です。人柱といえば、去年読んだC.S.ルイスの『愛はあまりにも若く・・・』を思い出しました。あっちはホラーではなくもっとすごいところに連れて行ってくれますが、そのへんは文化と思想ないしは世界観の違いでしょうね。

(実業之日本社2007年1600円+税)

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2007年10月29日 (月)

宇賀克也『地方自治法概説』

 地方自治法の教科書に指定した本ですが、履修者が一人現れたので、慌てて読みました。判例が「地方自治法判例百選」の判例番号と共に挙げられているので、教材としては便利です。制度の実際の運用状況などもよく調べられていて重宝します。地方自治法の条文に則してすっきりと全体を見渡すにはいい本です。ただ、法的思考の訓練としては多少物足りない気もします。その点では原田尚彦『地方自治の方としくみ』の方が論争的姿勢で書かれていて、私の好みです。
 本書は法科大学院の教科書として書かれたようですが、教える側にとっては判例の立場を把握するだけの授業に終わらせないことが大切だろうと思います。教科書を使う側の力量が問われる本です。私も一人相手の講義ですが、しっかりやるつもりです。ただ、聴いている方は大変かも。

(有斐閣2007年第2版2,300円+税)

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2007年10月28日 (日)

勢古浩爾『会社員の父から息子へ』

 著者は一昔前の九州男児という感じの人だとは思っていましたが、本書はほんとうにそんな感じの真面目で無骨なイメージで人生を送っている人だということがわかりました。この男らしさは骨董品級です。団塊の世代にもこんな人が残っているのですね。
 著者の真面目さは、世の中の真面目な人びとを勇気づけてくれます。浮ついた世相や風俗に惑わされることなく、その道をそのまま進んでいいんだよと言ってくれています。ちょいワルなんて馬鹿なことを、ほんとうにバカと言ってくれる人はやはり必要です。
 ところで、ちょいワルどころか、ほんとうに悪くて醜い連中も私の周囲には少なからずいて、そいつらとしぶしぶ付き合ったり、やり過ごしたり、ときには闘ったりするのも骨が折れます。しかし、本書を読んで著者の生き方に勇気づけられました。明日からまた闘いの日々ですが、気持ちも新たに臨めそうです。

(ちくま新書2007年680円+税)

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2007年10月24日 (水)

内田樹『私の身体は頭がいい』

 久しぶりの更新です。身内に不幸があったりしてばたばたしていました。ようやくどうやら以前のペースに戻れそうです。
 さて、本書ですが、ポストモダンの現代思想と身体論がこんなに相性の良いものだったとは知りませんでした。武道の身体技法は確かに中枢から指令を出す体型とは相容れません。ポストモダンには退屈して久しかったのですが、本書は納得がいくだけでなく、楽しんで読むことができました。
 ただしあくまで武道が主で思想は従です。その思想も身体の方が主です。だから、たとえば「気」を感じたり、危険を予知したりするといった身体的な知についての考察が優れているのだろうと思います。「胆力について」の章は授業でも学生に紹介したいと思います。蜂を追い払う動きよりもハエを追い払う動きの方が速いという話(143頁)は、実はすでに使わせてもらいました。学生は結構真剣に聴いていました。今頃本書も買って読んでいるかもしれません。造形学部というのは反応のいい学生が多いので話し甲斐があります。
 いずれにしても著者は、本だけ読んで自分を賢いと思っているような輩とは対極にいる人です。おじさん的な説教にも、よく考え込まれ、気の利いた表現がたくさんあり、ギャグもあります。最初は仏文的論文調でどうなるかと思いましたが、読み終えてみると、全体的にはなかなか良い感じの本でした。

(文春文庫2007年571円+税)

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2007年10月11日 (木)

勢古浩爾『新・代表的日本人』

 すばらしい日本人8名が紹介されています。いい本です。いつもの著者独特の半畳を入れる文体とは違い、素直な書き方で、本の内容に合っています。これはこれで、論文臭くもありませんし、なかなかいい語り口です。
 広瀬武夫、石光真清、中江丑吉、小倉遊亀、笠智衆、須賀敦子、白川義員、陽信孝の面々ですが、みんな誠実で謙虚な努力家であるところが共通しているように思います。著者が惚れ込むのもよくわかります。特に小倉遊亀の絵は見てみたいですし、引用されていた須賀敦子の文章も魅力的でした。今度読んでみます。石光真清の本は長らく積ん読になっているので、そのうち読むつもりです。
 著者が言うように、この人たちは日本人の理念型(理想的典型)を体現しています。自分もまたこういう美しく強い人たちを鏡として生きたいと思います。と、つい中学生の読書感想文のようなストレートな感想を述べたくなるような、強いインパクトがありました。

(洋泉社2006年780円+税)

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2007年10月 9日 (火)

勢古浩爾『自分に酔う人、酔わない人』

 人は多かれ少なかれ自分で底上げした自己イメージに酔っているものですが、そのあたりの事情を微に入り細に入り描き出した本です。かつて東京に暮らしていたときには、とりわけ自己陶酔型の実はヘタレ人種というのにしばしばお目にかかりました、このごろはやたらと暴力的に切れる輩も増えているようです。くわばらくわばら。
 そういえば、田舎の大学にもプライドばかり高くて、まともな論文どころかまともな報告文すら書けない連中が少なくありません。さらに、私学では工事代金からのキックバックのことしか頭にない経営陣も健在で、そうした連中が柄にもなく説教したりするのだから、笑っちゃいます。笑っているうちに経営が傾いていくのもかないませんが、いずれにしても、ろくでもない人間ほど自分に酔っぱらったり、逆ギレしたりするので、ほんとうに日々迷惑しています。
 著者の語り口は病みつきになります。ほんとうによく、冷めた目で人を観察していますが、その一方で、誠実な人びとに対してはほんとうに惚れ込んでいるところもうかがえて、それがなかなかいい感じなです。悪口ばかりの本ではありません。

(PHP新書700円税別)

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2007年10月 7日 (日)

勢古浩爾『アマチュア論。』

 いつもながら鋭い観察に基づいた適切な表現が光っています。本書によれば、「自分」を消して誠実に努力するのがアマチュアの良いところで、一流のプロはこのアマチュア精神が溢れているというのは、なるほど言われてみればその通りです。三浦知良にしても、松井秀喜にしても、確かにそうなんですよね。
 そして終章「アマチュアは人間のゼネラリストである」では、格言として「自分を生きるには自分から離れなければならない」とあって、これは日本的正義論であり、宗教論なのではないかとさえ思えてきます。勤勉の哲学というより誠実の哲学でしょうか。私には、この精神はかつて鈴木大拙が世界に広めようとしたのと変わらないように見えます。
 同じ終章に、カズオ・イシグロの『日の名残り』の中から印象的な表現が引かれていますが、やはり映画を観ただけではいけませんね。このシーンはおそらくシナリオからカットされていたようです。今度原作を読んでみりつもりです。
 さて、わが身を振り返って、一体自分は何のプロなんだろうと考えてみると、事務処理のプロではあっても、残念ながら学問のプロではありません。まるで「日曜歴史家」みたいなサラリーマン生活ですが、その日曜も今日は出勤です。スクーリング授業や学園祭が重なって、いかにも時期が悪いのですが、明日は久しぶりの休日という感じです。3週間でようやく2日目の休日ですから、アナール学派よりも条件は悪いかもしれません。しかし、私も何より著者のいう「よきアマチュア」となるように努力していきたいと思っています。日々職場で腹が立たないわけではありませんが、焦らずクサらずやっていきます。たぶんクサったら負けです。
 しかし、本書の次のような記述には、深く納得してしまいます。私にとっては多大なるガス抜き効果があります。ちょっと長いけどそのまま引用します。
 「やり手とかキレ者といわれる人物がいるが、かれらの思考や行動がほんとうに感嘆すべきものかどうかはじつは不明である。周りの者を犠牲にして、その成功だけを自分が掠め取っているかもしれない。とにもかくにも業績をあげれば、それが上長の手腕ということになるからである。凄腕とか辣腕とかいわれるわけである。そんなアホな人間を引き上げる組織には、かならず似たようなアホがトップに君臨しているのである。」(55頁)
 どうしてうち会社の秘密を知っているのだろうと思う人も少なくないのではないでしょうか。この手の輩に限って、自慢話しかしないでしょう。そんな会社は当然ダメ会社なのですが、いずこも同じ秋の夕暮れなのかもしれません。

(ミシマ社2007年1680円税込)

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2007年10月 6日 (土)

岸川真『フリーという生き方』

 今日は電車で座れなかったので、これを読みました。フリーの編集者の苦労話ですが、ひりひりするような哀感が伝わってきます。でも、いい人とのつながりもあって、ほっとさせられます。
 しかし、こういう繊細な神経のこそ人が本当に質の高い本を作ってくれるのではないかと思えてきます。少なくとも、私が知っている範囲での編集者というのは、そんなにいい人ばかりではありません。どちらかというと極道に近い感じの人も少なくありません。そんな人たちの中では著者のような人は、さぞかし神経がすり減るだろうと思います。
 一寸先が闇なのはフリーの世界に限られた話ではありませんが、やはり、正社員というのは手厚く制度に守られているのだなあと思います。家をローンを組んで買うなんてのはフリーでは無理ですね。逆に、仕事が当たるとキャッシュで買うなんてことはできたりするかもしれませんが、銀行はお金を貸してくれないでしょう。
 しかし、何より得難い自由があるからこそ、フリーを目指すのでしょう。これには私もやっぱりあこがれます。私事で恐縮ですが、気がついたらここ3週間近く1日しか休みをとっていません。次の休みは明後日ですが、ということは2週間に一日の割合でしか休めない状況です。でも、これが仮にフリーの仕事だったら、少なくとも「やらされている」とか「こき使われている」といった感じではなくなると思います。大変でもそれがいいのでしょうね。

(岩波ジュニア新書2007年740円+税)

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2007年10月 1日 (月)

川崎政司『地方自治法基本解説』

 後期の授業で地方自治法を教えることになったので、教科書を選ぶために読みました。というか、これを教科書に指定したのですが、独習向きの丁寧な解説書なので、教科書としては不向きだったかなと、思い始めています。判例も適宜入っていて、公務員試験にも役立ちそうな編集です。また、コラムが充実していて貴重な情報も詰まっています。
 ただし、設例や事例から考えさせる記述がほとんどないのが欠点かもしれません。判例にしても、覚えておけば試験を乗り切れるという扱いなので、受験参考書としてはともかく、じっくりと問題解決能力を養うような本ではありません。無い物ねだりですが、この分野でそうした演習書を書いてくれる人がいると助かるのですが。
 そういえば、以前行政法の演習書について、有斐閣に問い合わせたところ、最近は演習書は人気がなくて、版元品切れか絶版になっていることが多いとのことでした。司法試験も択一問題以上に論述問題に力点を置いてくれると、考えさせる教科書が増えてくると思いますが、新制度は暗記科目的な方向に進んでいるのでしょうかね。そのうちちゃんと見てみようと思います。
 それにしても4年生の後期に配置されている科目のせいか、現段階で履修者が1名とのことです。はたしてマンツーマンでやることになるのでしょうか。私が学生だったらいやですけどね。
 いずれにしても、なるべく論文を書かせる授業にしたいのですが、その点では残念ながら、この教科書はあまり使えません。判例集と条文をにらめっこしながら、自作の問題を用意していかざるをえないようです。とりわけ、地方自治法の条文は特に悪文の見本市みたいなところがありますので、ストレスがたまります。エリート官僚が作文したのでこうなったのでしょうが、もうちょっとどうにかならないものでしょうか。

(法学書院2004年2400円+税)

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