朱川湊人『いっぺんさん』
著者の小説は初めて読みました。直木賞作家とは知りませんでした。表題作「いっぺんさん」は生涯に一度だけ願いが叶う山奥の祠のことで、すてきな短編です。そこまで読んだところで著者紹介を何気なく見ていたら「ノスタルジックホラー」の名手とあり、あれっ、ホラーでもないのになあ、と思いました。しかし、そのほかの作品は確かに恐怖小説で、話の展開が予想通りのところもありますが、結構怖かったです。
本書のそれぞれの作品がノスタルジックなのは、わが国に民俗文化が色濃く残っていた時代に遡るからなのですが、実際、あのころの怖さは都市化が進んだ今ではずいぶん薄れてしまっているのかもしれません。宮崎アニメの世界では健在ですが。
最後の「八十八姫」はいわゆる人柱の話です。人柱といえば、去年読んだC.S.ルイスの『愛はあまりにも若く・・・』を思い出しました。あっちはホラーではなくもっとすごいところに連れて行ってくれますが、そのへんは文化と思想ないしは世界観の違いでしょうね。
(実業之日本社2007年1600円+税)

