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2007年12月30日 (日)

日垣隆『常識はウソだらけ』

 題名どおりの本で「へぇー、そうだったのか!」の連発です。ペットボトル再生に新たに石油を使うとか、病院での検査は自覚症状が出てからで十分とか、交通事故死者は事故後24時間以内に死んだ人しかカウントしないとか、いっぱいあります。捕鯨や動物保護に関しても目からウロコの話ばかりです。クジラは捕鯨をしながら保護したほうがいいという話は本書ではじめて納得がいきました。要するに、クジラがこのまま増えていくと、あるとき餌が突然なくなって、クジラ自身が全滅する恐れがあるのですね。
 本書はもともと、TBSラジオ「サイエンス・サイトーク」の収録を元にしたものですが、丁寧に加筆構成がなされているようで、具体的な数字による根拠もきっちり示されています。ホストの日垣隆氏もいつものように綿密に下調べをしてトークに臨まれていて、その勉強ぶりにはつくづく感心させられます。この真摯な姿勢は素晴らしいと思います。

(ワック株式会社2007年857円+税)

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2007年12月27日 (木)

佐藤雅彦『プチ哲学』

 古本屋で入手しました。何気ない日常の中にいっぱい考えるヒントがあることを教えてくれます。著者自らが描いたかわいいイラストとともに、解説の文章がいろいろと考えさせてくれます。読むというより楽しみながら考える絵本です。本書のイラストには独特の味わいがあります。どこかで見たと思ったら「ピタゴラスイッチ」に出てくるイラストがそれのようです。
 書名はプチとはいいながら哲学なので、考える内容は決して浅くありません。しかし、かといって高度に抽象的すぎるものでもありません。どちらかといったら人生のためになる話の部類に入りますが、お説教臭く語るところはないので、わが家の小学生の娘が気に入って読んでいます。9歳から90歳まで楽しめる本だと思います。著者の他の本も探してみます。

(中公文庫2004年648円+税)

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2007年12月21日 (金)

日下公人『これから10年、光る会社、くすむ会社』

 出たときにも読みましたが、今回再読です。あらためて教えられることばかりですが、よくもまあこんな会社があったものです。時代の先端を走っています。社長は形だけの存在で、中間管理職もいない組織です。それぞれの部署で決済し、利益はみんなで山分けし、あるいは値下げの原資にするという、広島の「21」という会社がそれです。苦しい私学経営のヒントになることもたくさん書かれています。どんな組織もこれからの社会を生き延びるには、多かれ少なかれこの分権型組織をお手本にせざるを得ないと思われます。また、実際すでにそうしているところしか生き延びていないともいえます。先日読んだ『ヒトデはクモよりなぜ強い』の実践版はやはりこれでした。
 それにしても、現場の意向を無視して上からの組織改編を押し付けては、形だけの改革を済ませた気になっているような旧態依然の組織では、滅びるのは時間の問題です。どうしましょう。他ならぬ自分の職場がそんな所なのです。
 私立学校法人はそれぞれの先生の私塾に解体するしかないような気もします。私も哲学や思想を講じる私塾を旗揚げするのは年来の夢なのですが。その時期は予想より早くやってくるかもしれません。

(ソニー・マガジンズ2005年1400円+税)

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2007年12月20日 (木)

井筒俊彦『イスラーム哲学の原像』

 イスラーム神秘主義とイスラーム哲学の関係およびその展開がよくわかる名著です。一神教の深い神秘思想が、このような形而上学になるとは新鮮な驚きです。確かに禅にも近いところがあります。ただ、この哲学には一神教ゆえの窮屈さというのはないのかなという気もします。
 キリスト教にはこうした厳密な一神教ではないところがあるため、逆に社会や個人の自由といったものが存在する余地(というより理由)が三位一体などの概念の内に暗示されていると思うのですが、イスラム教はその点どうなのでしょう。
 いずれにしても、イスラーム哲学が魅力的な形而上学であることは確かです。今や形而上学を排除することが共通の了解事項となった現代哲学とはまったく異なる世界です。今後も少しずつ勉強していくつもりです。

(岩波新書1980年2007年リクエスト復刊740円+税)

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2007年12月15日 (土)

R・セイラー『セイラー教授の行動経済学入門』

 新刊かと思ったら、新装改訳版で、旧版はまだ行動経済学という分野が一般的でなく、著者のセイラー教授もノーベル賞を貰っていなかった1998年に出ていたそうです。題名と書評だけを頼りに買ってしまって、ちょっと当てが外れました。同僚の先生から、本書は雑誌連載を集めたちょっと古い本だという話を、注文してしまってから聞かされました。ま、それでも買って読んではいたと思いますが。
 私としては、社会科学の先端を行くこの行動経済学という分野の楽観的な世界観に惹かれるものを感じています。また、社会科学系の授業に使えそうなエピソードがふんだんにある分野なので、注目せざるを得ません。実際、しばしば授業の小ネタというか、議論の材料にもしています。
 しかし、本書は行動経済学の中の心理実験の面白さに焦点が当てられているのではなく、結構専門的な経済現象が必ずしも合理的に説くことができないというスタンスで書かれているので、経済学プロパーにはいいかもしれませんが、入門書として一般読者が読むのはちょっとつらいところがあります。
 もちろん、アメリカのこの手の本らしく、各章のはじめにかなりおしゃれな設例やエピソードが書かれていて、工夫が凝らされていますし、楽しんで読めることは間違いありませんが、本文の記事の中には結構難しいものもあります。
 実際、私自身、経済学がより合理的な説明を求めるために方法論的にさらに洗練を加えるかどうかということは、当面の関心ではありませんので、この分野の良い読者ではありませんが、入門書としては、やはり友野典男『行動経済学』(光文社新書)の方がお勧めです。

(篠原勝訳ダイヤモンド社2007年1800円+税)

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2007年12月11日 (火)

薬師院仁志『地球温暖化論への挑戦』

 世界中が二酸化炭素増加と地球温暖化の因果関係をつゆほども疑わず、ゴアなんかノーベル賞をもらって新たな王として君臨している昨今ですが、この時代の空気に「王様は裸だ」と言ってのけるすごい本です。2002年の本なので、ゴアは出てきませんが、地球温暖化論者たちの科学的な根拠の脆弱さが徹底的に追求されています。
 著者は文化系の学者の強みを発揮して、相当丁寧に過去の文献を渉猟しています。そして、地球温暖化論の権威シュナイダーがかつては地球寒冷化論者だったこと、主張の背景に原子力発電推進の意図が露骨にうかがわれることなども指摘しています。シュナイダーってのは、かなりのインチキ野郎みたいですね。
 しかし、著者の一番の強みは「こんな文系の素人でも十分に納得できる科学的根拠を示してほしい」というスタンスです。地球温暖化論者の唯一の根拠が、コンピュータシミュレーション以外に何も出されていないということ、実際のデータの裏付けがないということには、あらためて驚かされました。科学者が科学的裏付けなしに語るようなら、それは温暖化論という踊りを踊っているとしか思えなくなります。こんなことでは、ひょっとして今後冷夏が3~4年続いたりすると、同じ学者たちが手のひらを返したように、氷河期到来を騒ぎ出すかもしれません(そのとき原発推進の立場だけは一貫しているかもしれません)。
 いずれにしても、専門家を筆頭とし、マスコミや活動家たちが闇雲に権威を盲信し、時流に乗って騒ぐだけでなく、それが内外の政策に反映されていくという今日の状況は、著者ならずとも心配になります。この意味で本書は見事な社会学にもなっています。フランス政治のことや英語のこともそうでしたが、いろいろなテーマをこれだけしっかりと語れる著者の社会学者としての力量にはつくづく感心させられます。ただ、本書はあまりにも反時代的なので、人びとから無視されるかもしれません。良識のある人に広く読まれることを期待します。
 先日近所の大学の環境保護サークルの学生と話をしたら「いろいろな立場の本があふれていて、何が正しいかわかりません」と言っていました。一般的な読者の健全さを代表するコメントだと思います。狂信的でないのはよい傾向ですが、今度会うことがあったら、本書を勧めておきましょう。

(八千代出版2002年2,000円+税)

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2007年12月 8日 (土)

小島寛之『数学で考える』

 単に数学がわかっている人ならどこにでもいるでしょう。しかし、著者のように数学の使い方がわかっていて、それを明快かつ軽快な文章で表現できる人となると、本当に希少だと思います。デリバティブやケインズの乗数効果などについての章は、ああ、そういうことだったのか、と理解することができます。思いのほか簡単な数学でケリがついています。自分がわかる範囲の数学でも目からウロコです。
 また、数学と現実が虚数なんかを介して怪しい関係を切り結んでいる事情も説かれていて驚かされます。虚数なんてものは数学者が勝手にこしらえただけのしろものではなかったのですね。
 私の理解不能な数式も出てきますが、そのあたりは文脈から想像して読み飛ばしてしまってもいいと著者自身が最初に語ってくれているので、気が楽です。それでいてわかった気になるのだから、なんだかおトクな気分の本です。
 私は高校のとき、数学がさっぱりわかりませんでしたが、公務員受験指導なんかをする際に勉強しなおしてみると、だんだんわかってきました。これには一種のコツがあります。理解が難しいときはともかく基本に返って教科書の説明をただただ筆写すると、あーら不思議、わかってしまうのです。身体を使いながら確認するのがいいのかもしれません。手からわかるという感じです。
 思えば、数学者は紙と鉛筆があれば退屈しないというのも、この辺の事情があるのでしょう。彼らは暇さえあれば何かを書いていますもんね。一方、数学が苦手だった高校時代の自分は、明らかに手を動かしていなかったなあ、と思います。写経のつもりで写してみると新しい世界が開けるということは、少なくとも数学が生まれてこの方一貫して得意だったような人は教えてくれないだろうと思います。数学が苦手だと思っている人は、試しにやってみてください。少なくとも苦手意識がなくなること請け合いです。

(青土社2007年1600円税別)

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野口悠紀雄『モノづくり幻想が日本をダメにする―変わる世界、変わらない日本』

 

わが国では、旧来の産業構造を温存したまま、景気が回復してきているため、今後ますます世界の潮流から取り残されるぞ、という警世の書です。正確なデータに基づいた指摘と著者独自の新鮮な提案が光ります。たとえば、企業業績の回復はリストラによるものではなく外部的な価格要因によること(111頁)、また、事業承継税の優遇措置のため旧中心市街地の商店街がいつまでも活性化されないという問題(123頁)は説得力があります。
 また、民間金融機関の立場からすると、郵貯を民営化するのではなく、公的金融機関としての役割強化を求め、国債引き受けの継続あるいは拡大を求めるべきだった(
180頁)とか、消費税率引き上げの前にインボイス導入についての議論を行なうべき(187頁)という指摘は傾聴すべきでしょう。
 なお、官庁セクショナリズムが合理的な年金制度の導入を阻んでいる(210頁)というのはもっともですが、その後の年金をめぐるアホ庁ならぬ社保庁の不正問題は、あとがきにもあるように、著者の想像力を超えていたようです。 

 

(ダイヤモンド社20071600円+税)

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2007年12月 4日 (火)

オリ・ブラフマン/ロッド・A・ベックストローム『ヒトデはクモよりなぜ強い―21世紀はリーダーなき組織が勝つ』

 今日的な見事な組織論です。カオスや複雑系、ネットワーク理論あるいは『ウィキノミクス』の延長線上にある本です。緩やかでフラットな分権型組織の強さが巧みにとらえられています。集権型組織がダメなことはわかっていても、それに代わるどのような組織を作るのはなかなか勇気が要ります。本書はそのためのヒントに満ちています。もちろん分権型組織は良い組織ばかりではありません。アルカイダなんかもそのひとつですから。しかし、本書はそうした組織との戦い方までも書かれていて、実に行き届いています。最近は個人的にも職場の組合活動にかかわっているので、とりわけ参考になります。
 ただ、本書に書かれていることは、すでに体験的には日本の優れた企業にも取り入れられています。本書でもトヨタ自動車の例は出ていますが、ほかにもたくさんあります。うろ覚えで恐縮ですが、広島の「21」(トゥー・ワン)という眼鏡販売会社などは、本部機能のない会社として有名です。日下公人の本で紹介されていて感心したことを覚えています。もう一度きっちりと調べてみるつもりですが、たぶん本書の理論と重なるはずです。

(糸井恵訳日経BP社1800円+税)

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岡正雄『異人その他』

 年末まで休みなしの地獄の日々がスタートしています。今のところどうにかやれていますが、疲れがたまってくる20日ごろは、倒れているかもしれません。とりあえず本は読んでいますが、電車の中で昏睡状態のときは読めませんので、これからも更新が滞るかもしれません。
 さて、本書ですが、ヒントが山ほど詰まった刺激的な本でした。1994年に文庫化されたときに読んでいたはずですが、内容はまったく忘れてしまっていました。当時はショムローの『原始社会の財貨取引』への言及があるかどうかだけに注意しながら読んでいたような気がします。言及はありませんが、問題意識はかなり重なっています。ちなみに、著者の岡正雄がウィーンで師事したシュミットの本にはショムローの名前は出てきます。

 今回改めて気づかされたことは、著者が日本文化というものを大陸や海洋からやってきたさまざまな文化を含む重層的な複合体ととらえていることで、江上波夫の日本民族騎馬民族説と共鳴し合っているところもあります。そのほかの内容も含めて、大学時代に蒲生正男先生の文化人類学の講義を聴講したことを懐かしくも思い出しました。蒲生氏も岡正雄門下だったと思います。「熱い」講義スタイルが印象的でした。

 本書の最後には著者のウィーン時代の回顧が収められています。これもまた当時のウィーン学派の様子や、周囲の学説史的流れを窺い知ることのできる貴重な資料となっています。

 (大林太良編岩波文庫1994570円)

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