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2008年7月31日 (木)

岡野雅行『人生は勉強より「世渡り力」だ!』

 著者の言う「世渡り力」というのは「人間の機微を知り、義理人情をわきまえ、人さまにかわいがられて、引き上げてもらいながら、自分を最大限に活かしていく“総合力”なんだよ」(18頁)とあります。このかわいがられ、引き上げてもらうというのがポイントです。
 これと同じことですが、本書では「人が寄ってきやすい“スキ”をつくれ」という章があって、新鮮でした。著者の言葉では「スキは愛嬌なんだよ。『あのヤロウ、バカだねぇ』と思うから、何か言ってやりたくなるんだし、『あいつ、しょうがねぇな』と感じるから、なにかしてやりたくなるんじゃないか、そうだろう?」(35頁)ということになります。
 そのとおりです。この戦略は人類学的にも社会学的にも哲学的にも理にかなっています。勝ち組みとやらになろうとして他人を蹴落とそうとばかりする人にはわからないところです。
 本書は取材が上手なのか、他書と少し違う話を引き出しています。読みやすいつくりになってもいて、編集者の腕のよさが光っています。新刊ですし入手しやすくお勧めです。

(青春出版社2008年750円+税)

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2008年7月30日 (水)

岡野雅行『俺が、つくる!』

 本書も岡野雅行氏のインタビューからできた本です。これも今まで読んだものと大体同じ内容ですが、面白さは変わりません。語り口の魅力でしょうか。
 それでも、本書で初めて知ったことも少なからずあります、その一つは、仕事を紹介してくれる人との間で利益をいつでも折半する、ということです。五割もらえるなら仲介者も張り切ることでしょう。それでいったん仕事が成立した後、仲介者を飛ばして直接仕事が入ってきた場合には、著者は仲介者に義理立てして絶対に引き受けないとのことです。
 こうした信用の積み重ねが今の岡野工業をつくってもいることがよくわかりました。著者が義理と人情を大切にするというのはこういうことなんですね。
 義理と人情といえば、著者は子どものころ、ヤクザのおにいさんの刺青の入った背中を流しながら、
 「おじさん、この虎、目が一つないね」
 「ばか、よく見るんじゃねえ」
 「なんでやめたの?」
 「痛えからだよ・・・」
なんてやりとりしながら育った人です(212頁)。そんな著者だからこそ、そのお兄さんからお小遣いをもらったり、いっしょに海水浴に行ってボディーガードしてもらったりと、人情の機微を早くからつかんでいる人だから、おっそろしく機転がきくし、何より人を見る目があるのでしょう。
 だから、そんな人の話を聞くだけでも、世界が広がり、本当に勉強になります。

(中経出版2006年495円+税)

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2008年7月29日 (火)

奥野俊一監修『バスケットボール 試合に強くなる戦術セミナー』

 バスケットボールの戦術についての本格的な解説書は本書が初めてだろうと思います。トップレベルの戦術が丁寧に解説されていて、指導者必携の好著です。私の好みの1-3-1のオフェンス隊形からの展開が詳細に書かれていて重宝します。また、そのアイデアの豊富さに驚かされました。本当によく研究されています。

 本書は豊富な写真と図解で理解を助けてくれますが、できればDVDも作成してもらえるとありがたいところです。これだけの内容なら、別売りで高価でも買いますけどね。

 それはそうと、最近母校の松江北高校がインターハイやウィンターカップに出てこなくなったので、ちょっとさびしい気分です。以前はよく応援に行ったものですが、このところ中部圏の大学や高校の試合をときたま見るくらいです。こんなとこでもセネガルやリトアニアなんかの留学生が活躍しているくらいですから、ひところとはかなり様変わりしちゃいました。

(実業之日本社2008年1300円+税)

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岡野雅行『あしたの発想学』

 これもいい本でした。著者の本は基本的にインタビューから構成されているつくりなので、お得意の話が本書でも繰り返し出てきますが、少しずつ微妙に新しいことも含まれていて、そのたびに感心させられます。

 本書では帝国ホテル4階のダックスのバスタオルの使い心地がいいとか、吉原ではおでん屋の親父でポン引きやっている手合いがいて、その人が結構鋭いことを言ったりするなんて話が面白かったです。

 また、大企業相手の喧嘩では、FAXを使うと理不尽な話が相手の会社の他の部署にまで広がって有効だ、といった知恵に感心させられました。相当の喧嘩上手です。大会社のずるがしこさもしばしば指摘されていますが、その大会社の上のほうに必ずいる「インチキ野郎」(196頁:どこでもいますね)も著者には相当手を焼いたはずです。

 とにかくユニークな人ですが、自分ではは何一つ特別なことはしてこなかったと言います。「ただ、時流に流されず、変わらずに日本人気質を続けながら手を動かして額に汗かいて働いてきただけ」(232頁)とのことです。いや、それこそがなかなか出来ない立派なことだと思いますが、かつてたくさんいたこういう職人が今日のわが国では希少価値になりつつあるのが、実に残念です。

(リヨン社2006年850円+税)

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2008年7月28日 (月)

松浦元男・岡野雅行『技術で生きる! 1人1億円売り上げる経営』

 岡野氏は言うまでもありませんが、樹研工業の松浦氏もすごい人です。高い見識の持ち主でもあり、そこらへんの大学の経営学の先生なんか足元にも及びません。大企業が官僚化してダメになっていく中で、こうした並外れた技術力とアイデアを持つ中小企業が日本企業をリードしていけば、21世紀の日本は安泰です。二人とも歯に衣着せず言いたいことを言っています。思えば誰にも気を遣わなくていいですもんね。
 真面目にこつこつと、しかも楽しんで努力を積み重ねることで、こういう人たちの今日があるわけです。ズルして儲けようなんて全くないところが実に爽やかです。ここのところ不正でマスコミを賑わすズル社長たちのどことなく黒っぽい表情とは違って、お二人とも本当にさっぱりと明るい表情をしています。近くでお目にかかるともっとよくわかると思います。
 そういえば、最近は黒いオーラというか気配を持った人がますますよくわかって、面白いといえば面白いのですが、目の当たりにすると気持ち悪いものです。そういう人にはできるだけ近づかないようにしていますが、見ず知らずの人が電車の列に割り込んできたりとか、携帯電話をかけながら運転している車とかも黒々としていたりするので、街中でも油断できません。
 それはそうと自分も修行を重ねて、年とともに「いい顔」になるようにしたいものです。

(ビジネス社2004年1500円+税)

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2008年7月27日 (日)

岡野雅行『人のやらないことをやれ!』

 これもまた痛快な本でした。先日読んだ本と内容が重なるところが少なくありませんでしたが、噺家の持ちネタみたいで、何度読んでも飽きないという感じです。
 この間の本にもありましたが、玉の井のお姐さんたちから「何か人にしてもらったら、4回はお礼をいいなさい」と教わったとあります。食事をごちそうになったら、食べ終わったあとはもちろん、翌日、翌週、翌月と顔を合わせるとお礼をいうのだそうです。この心がけがあれば、確かにしっかり世渡りができるでしょう。人情の機微に通じた奥深いアドバイスだと思います。
 これに限らず著者はいろんなところでいろんな人から教わったことを本当に大切にしています。おそらく当時も聞く耳を持たなかった人は少なからずいたはずです。しかし、著者が本当のところは隠し持っている素直さとまじめさが、無数の人々の知恵を活用するのに役立ったのでしょう。著者は野暮なことが嫌いな江戸っ子なので、その辺でちょっと偽悪的にふるまってしまうようですが、実は相当に真面目な努力家です。
 著者がしきりに薦めている古典落語の「付き馬」と「蔵前駕籠」は、そのうち聞いてみようと思います。古典落語入門のCDに収録されているようですので、早速入手したいと思います。

(ぱる出版2006年1500円+税)

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2008年7月26日 (土)

古田博司『新しい神の国』

 日本は東アジアの宗族文化圏には属さない、独自の文化圏にあるということが何度も強調されます。多分正しいのでしょう。独特の日本文化圏はそもそも脱亜入欧する前から「別亜」だったという主張にも説得力があります。中国や韓国の現実をよく見ている人なら、著者の言うことに分があることがわかると思います。私も日々留学生のわがままとつきあいながら、実感としてわかることが少なくありません。
 著者の文章には独特の粘りがあって、なかなか深い味わいがあります。いろんな感情が交錯していることが感じられます。この文体は、ときには絶望の深さを現してもいますが、決して希望は捨てられていません。日本人を励ましてくれる本です。

(ちくま新書2007年700円+税)

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2008年7月25日 (金)

岡野雅行『学校の勉強だけではメシは食えない!』

 世間という書物から多くを学び、頭を鍛え、自分の腕を信じてたゆまず鍛錬することで、こんなすごい職人ができるんですね。確かに学校の勉強だけではこんなスーパーマンは育ちません。子どもの頃から遊郭で人を見る目を養い、ベーゴマを削っていつまでも開店するように改造しては友だちに売りつけて儲けたりと、なんだか常にすべてを楽しみながら自分の血肉にしていったという感じの人です。
 語り口が下町の江戸っ子のそれなので、日ハムの大沢元監督や本書の帯に言葉を寄せているビートたけしの雰囲気があります。そして何より発想が豊かで、語彙も表現力も実に豊富な人です。若い人には落語を聞くことを勧めていますが、本人もそうやって学んできたのでしょう。こんな人だからこそ「痛くない注射針」が開発できたりするのでしょうね。
 とにかく元気と勇気の出る本です。うち大学の学生たちにも強く推薦しておきます。

(こう書房2007年1,400円+税)

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2008年7月24日 (木)

古田博司『東アジア「反日」トライアングル』

 中国韓国北朝鮮が反日にこだわる理由を著者はこう述べます。
 「歴史上、中国や朝鮮では新たに王朝が生まれると、前の王朝の正史を編纂した。前王朝の記録をもとに、自王朝の正当性強化に役立つ部分を選びだし、都合の悪い部分は排除していった。そのようにして正史が完成すると、史料は往々燃やされてしまった。(中略)ゆえに新王朝は、天命を受けた正当性ある政権であることを示すために、自らが礼にかなっているという、自己中心の中華の歴史を常に作りだしていったのである」(81−82頁)
 当然彼らにとって、わが国は常に野蛮で道徳的に劣っていなければならないというわけです。
 このような歴史的で精神分析的な説明は岸田秀の著作以外にあまりお目にかかりませんでしたが、本書はなかなかの説得力がありました。著者は韓国で日本語教師をして殴られたりしながら、こうした問題を考え続けてこられたのでしょう。机上の空論ではありません。文章に血が通っています。
 ただ、抗日運動をした金日成と、その後の金日成は別人だというのが定説になっていると思っていましたが、本書ではその説はとられていないようです。ちょっと気になりました。

(文春新書2005年710円+税)

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今村都南雄『官庁セクショナリズム』

 後期授業で行政学を持つので、読んでおかなければいけません。で、まあ、学者の書いた本としては妥当ですが、やはりあまり一般読者にとって面白い本ではありませんでした。
 往々にして、こういう本は先達を批判するにしても気を遣うわけで、一般読者はその分蚊帳の外に置かれます。それで、新機軸を出すかと思うと、それは外国人タレントの新理論の輸入だったりするので、がっかりさせられることが少なくありません。本書もそのわが国の学問のスタイルにかなり忠実で、ま、行政学に関心のある人以外にはおすすめできません。
 セクショナリズムは官庁に特有の現象でもないし、官僚制の諸悪の根源でもないという学者らしい結論はある意味で妥当なものです。その点での個別の考察や批判は鋭いですが、ではその根本の原因は何かということになると、論点がぼやけてしまいます。また、事実上セクショナリズムを調整することになるいわゆる事務次官会議について、どこにも触れられていないのは物足りない気がします。内閣法の改正とそれが骨抜きになる近年の状況も本書では無理にしても、このシリーズの中で誰か触れてくれるとありがたいのですが、そうした生々しい現実を扱うのはそもそも学者には無理なのかもしれません。

(東京大学出版会2006年2600円+税)

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2008年7月18日 (金)

小川三夫『木のいのち木のこころ(地)』

 理屈ではなく体と心を使って仕事をしている宮大工のお話です。お師匠さんの西岡常一も偉い人でしたが、お弟子さんも小川さんもしっかりこころと技術を受け継がれています。すごいですね。途中に幸田文が出てきて作業を手伝ったなんて話があったりして、そうだろうなと目に浮かぶような気がしました。
 哲学や思想、あるいは学問なんかもこうしてあまり語らずに修行させるというのが、いい方法なのかもしれません。そんな時代が来るような気がすると、かつての私の師匠の中村雄二郎は言っていました。確かに手取り足取り教えるというタイプではありませんでしたが、そういえばその師匠も本来なら職人が似合うような風貌でしたね。こういう本を読むとむしろそんな時代が来ないとダメなのかもしれないという気がしてきます。頭だけで哲学や思想は本当はやっちゃいけないと思います。
 ともかく、いろいろと教訓に満ちた本でした。版元の草思社はいろいろといい本を出しているのですから、何とか立ち直ってほしいものです。

(草思社1993年1500円)

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2008年7月17日 (木)

田中・倉持・和田編『世界歴史大系 ロシア史3 ―20世紀―』

 ようやく全3巻を読み終えました。特に20世紀は失敗と苦しみだらけの歴史で、国民にとっては本当に気の毒な歴史です。戦時体制のまま国家社会主義が形成されていくわけですが、緊急避難的な政策が常態化し、官僚制によって固定化されていく歴史でもあります。真相が明らかになっていない政治的事件がかなりあり、統計もあやふやなので、歴史家にとっては何とも悩ましい時代です。
 戦時体制の中で成長していった官僚制という点では、わが国のそれと共通する部分も少なくありません。かつてゴルバチョフが「日本はもっとも成功した社会主義体制だ」ってなことを言っていましたが、座布団一枚あげたいくらいです。その日本の改革は日暮れて道遠しです。時代遅れなのですけどね。官僚も既得権益がかかっているだけにしぶといものです。
 この苦難の歴史に対する評価が書かれていないなと思っていたら、最後に補章「社会主義の七五年をふりかえって」として、取り分けて触れられていました。和田春樹がご自身の説を「ソ連社会主義七五年の意味を文明史的に問う新しい試論」の一つにちゃっかり位置づけているのに妙に感心させられました。この心意気だからこそ大御所なのか、大御所だからこそ許されるのか、大胆な振る舞いです。
 それとは別に、ソ連崩壊後のヨーロッパでは広く読まれていた『共産主義黒書』などについて一切触れられていないのが気になりました。 20世紀ロシア史は、あと10年くらいたってから、新たに書かれたほうがいいかもしれません。

(山川出版社1997年5343円+税)

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2008年7月14日 (月)

谷沢永一『日本人が日本人らしさを失ったら生き残れない』

 日本人は「未然形の劣等感」、つまり、まだまだ自分は遅れているとつねに考えて努力を続けるところに、その国民的特徴があるとの仮説をもとに日本思想史をおさらいしてくれます。説得力があります。職人的凝り性の気質もこれに基づくのかもしれません。
 本書も著者の他の著書と同様に、いろいろなエピソードと一流の着想で読者を楽しませてくれます。
 とりわけ感心させられたのは、源氏物語や大鏡の批判精神を指摘することだけでもすごいのに、さらにそれが古典として残されてきた日本文化の懐の深さにまで言及するところです。さすがマルクス主義の正当異端論争で鍛えられた人だけのことはあります。
 また、岩波古典文学大系の校注が当初すべて東大の学閥で固められていた経緯なども書かれていて、道理で木で鼻をくくったような語注に終始しているものがあるわけだと合点がいきました。要するに無能な学者にお鉢が回ってきたというわけだったのですね。
 そういえば、そのボスの一人、久松潜一は源氏物語の教科書註に、何かとんでもない間違いを書いていると、かつての高校の古文の先生がおっしゃっていましたが、もちろんそういうことはあったんでしょう。有象無象の弟子たちなら、もっととんでもないことになっているのかもしれません。とはいえ爾来古典文学大系のほうはそのまんま実は学会的には権威になっているようですね。ま、どの学会も似たり寄ったりですが。
 本書の最後は日本人の特性としての事実を重んじる精神が、明治時代以降今日に至る官僚制支配のために、ずいぶん損なわれてしまったという話で終わっています。著者は伊藤仁斎のリアリズムに多くを学んでいるようです。今まで仁斎を読んだことはありませんでしたが、私も主著『童子問』を読んでみようと思います。

(ワック株式会社2006年1500円+税)

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2008年7月 9日 (水)

橋本努『自由に生きるとはどういうことか―戦後日本社会論』

 戦後日本社会の精神史をサブカルチャーを題材に、一種の理念型として論じた秀作です。確かに社会に影響を与えた作品は分析する価値があると思います。学生運動に「あしたのジョー」が影響を与えていたとは知りませんでした。戦後のカストリ雑誌から尾崎豊、そして「エヴァンゲリオン」に至るまで、ほんとうに丹念によく調べられています。
 著者とは昔一度お会いしたことがありますが、そういえばアニメの主人公にしても良いくらいの美青年だったのを覚えています。議論も誠実で正統派です。マニアックで裏街道に出入りしている自分とはえらく違う気がします。
 それで結局「自由」は今「創造の自由」の問題に収斂しようとしているようなのですが、それが本当なら、造形学部を抱える勤め先の大学の未来は明るいかもしれないという気がしてきました。入学者数は減ってきていても、今後希望がもてるかも、と淡い期待を抱かせてくれます。ま、勝手な思い込みですが。

(ちくま新書2007年780円+税)

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2008年7月 8日 (火)

田村裕『ホームレス中学生』

 同僚が貸してくれました。いい本でした。読みやすいし売れているのもうなずけます。
 淡々と大変な経験が、飾り気なく書かれていますが、早く亡くなったお母さんを初め、いろんな人への愛情と感謝の気持ちがストレートに伝わってきます。温かい気持ちにさせられます。困窮した一家に周囲の人が救いの手をさしのべてくれるところがいいですね。まさに「弱さ」がネットワークを作るというという好例かもしれませんが、ま、そんなことはどうでもいいことです。
 それにしても、中学生にもかかわらず公園でホームレス生活を送る著者もそうですが、その家族を「解散」してしまった著者のお父さんもこれまた大変だったことでしょう。今ごろどうされているのでしょうね。ちょっと気になります。
 借りた本ですが、新たに買って家に置いておくおくつもりです。

(株式会社ワニブックス2007年1300円+税)

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2008年7月 7日 (月)

橋爪大三郎『仏教の言説戦略』

 これが著者の最初の論文集だそうですが、その後の構造主義論や宗教社会学へと展開していくテーマの種子が、本書の中で播かれ、発芽しつつあったことがよくわかります。元気がよくて、いい感じです。
 著者の本はどれも明快ですが、これも複雑な議論をうまく図式化して、わかりやすく料理してくれています。レヴィ=ストロースからフーコーへの方法論的な流れは勉強になりましたし、仏教やイスラム教をウィトゲンシュタイン言うところの「言語ゲーム」の総体としてとらえるという試みは、その着想だけでもコロンブスの卵ですし、議論も説得力があります。こういうのはウィトゲンシュタインの研究者にはできない芸当です。また、法の言語空間についての考察もいろいろと示唆的でした。
 今後とも何かにつけて読み返したくなるような本です。

(勁草書房1986年2900円+税)

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2008年7月 5日 (土)

『ウィトゲンシュタイン全集8 哲学探究』

 その昔二十代のころ、『論理哲学論考』の英独対照版を丹念に読んだことがあります。最後に用済みになった論理の梯子を捨て去るようなことが書かれていたのが印象的でした。うーん、何のために苦労してここまで読んだのかという気にもなりましたが、むしろ笑ってしまった記憶があります。
 それがいわゆる前期ウィトゲンシュタインですが、本書は「言語ゲーム」という言葉=思想の森に迷い込んでしまった著者の七転八倒がつづられています。今まで避けて通ってきましたが、言語が主人公になる現代哲学の問題を自分なりに解こうとすると、やっぱり読まずにいることはできないと観念して、3日がかりで熟読しました。
 それで、後期ウィトゲンシュタインもやはり、前期と別人ではありませんでした。相違点以上に共通する発想と議論の進め方が多いと思います。結論の違いはたいしたことではないように感じます。
 さて、真理の光が体系的論理的言語を通じて、現実の世界を照らし出すというイデア論を、徹底的に疑うというのは、西洋社会ではおそらく狂気の一歩手前のところまで行くことになるのでしょう。自明性が信じられなくなるということと同じですから。ウィトゲンシュタインはそんな大変なことをしています。
 結局、ウィトゲンシュタインの目には、言語はそれ自体よくできたゲームとして映るのですが、これが無数に重なり合って共存しているのは、考えようによってはかなり奇妙な世界です。実際奇妙な例をたくさん思いついては自問自答を繰り返すので、冗談なのかなと思われるところも少なくないのですが(「自分の頭に手を当てて、「私はこんなに背が高い」と言ったりする人なんかが出てきます)、本人はいたって真剣なのです。
 イデアについては、実は本人はその存在をおそらく信仰として堅持していたような気がしますが、それだけに何か痛々しい感じがします。言語の問題を乗り越える鍵は、ウィトゲンシュタインにとっては「像=Bild」(訳語は「映像」。ちょっと違和感がありますが、訳語に困るのは確かです)の扱いにあると思いますが、これは『論理哲学論考』のときから登場しながら、本書でも結局はっきりとした形にはなっていませんでした。
 ウィトゲンシュタインにないのは「なぜ人はそれでも言語ゲームに惹かれるのか」という問題意識で、それを権力的に解いたりすることも可能でしょうし、ラカンのようにフロイト的に解いたり(なんのこっちゃ)できるでしょうが、ここは読者に道を空けておいてくれていると考えてもいいかもしれません。
 唐突ですが、私はこれは劇的なイメージが鍵になると考えています。人間存在の本質は劇的な構造の中に示されるからです。演劇については誰もちゃんとわかっていません。かつて福田恆存が一番ちゃんとしたことを言っていましたが、その衣鉢を受け継いだ人は寡聞にして知りません。この議論はいずれ自分で展開するつもりです。

(藤本隆志訳大修館書店1976年4,500円+税)

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2008年7月 2日 (水)

武田邦彦『偽善エコロジー 「環境生活」が地球を破壊する』

 題名通りの本です。わが国は環境保全の名の下に、リサイクル全体に自治体だけで5000億円の税金を使っているそうで、この税金をもらう人は一万人くらいですから、一人あたり5000万円の利権となっています。
 これでは著者への攻撃が激しくなるのも道理です。その筋からはまともな反撃はできないので、個人攻撃に終始するわけですが、それでも著者の本がちゃんと出版されて読まれているわけですから、いずれは正義が勝つことになるでしょう。それにしても利権談合国家の不条理は相変わらず幅をきかせていますね。
 本書はそれぞれのリサイクルが個別に評価されていて、拾い読みにも適しています。とにかく、データがしっかりしているので、説得力があります。エコの常識を覆すことがたくさん書かれていますが、トンデモ本ではありません。中でも狂牛病が言われているほど危なくないという議論は新鮮でした。ただ、牛肉はあまり好きではありませんので、吉野家には今後も行かないと思います。

(幻冬舎新書2008年740円+税)

 

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2008年7月 1日 (火)

田中・倉持・和田編『世界歴史体系 ロシア史2 ―18~19世紀―』

 三巻本の2巻目です。基本的な感想は第一巻と同じですが、 執筆担当者の文体に多少ばらつきが感じられるところがありました。というか、何を言ってんだかわからない表現が三~四章の一部に見受けられました。素人が読んで誤解のないように書いてもらえればありがたいのですが。ま、全体には面白かったと思います。
 とりわけ、レーニンの『何をなすべきか』(1902年)の意義が確認できたのは個人的には助かりました。いわゆる「指導する前衛としての党」という考えで、マルクスが嫌ったインテリがこれをきっかけに革命に参加していくことになるわけです。革命エリートです。当時もさぞかしえげつない人間だったことでしょう。

(山川出版社1994年5343円+税)

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