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2008年8月 8日 (金)

池田清彦『新しい生物学の教科書』

 現行の生物学の教科書をダシにしながら、著者の生物学が語られます。それにしても現行の教科書の木で鼻をくくったような文章というのは、どうにかならないですかね。ま、だからこそこうしたユニークな本が登場する余地もあるのですが、高校生以下の生徒たちはいい迷惑です。生物が好きになるきっかけは少なくとも教科書からは得られません。
 本書ではまず、遺伝現象と遺伝子の伝達現象とはまったくレベルが違う話だということが強調されます。つまり、「真に遺伝されるものは細胞、真に遺伝されることは生きている形式(生命システム)である。このシステムはDNAの情報を解釈して個体をつくり形質を発現させる。DNAは遺伝されるものの一部でしかなく、DNAが担う情報は遺伝されることの一部にすぎない」(40頁)ということなのです。
 だから、遺伝現象がすべて遺伝子に還元できるかのような記述は明らかに間違いだと著者は言います。また、その点で、最も大きな遺伝的変異はシステム事態の変化ということになるのですが、そのメカニズムはまだ解明されていないし(47頁)、DNAと形質(生物、生命)とを結ぶ論理はいまだにヤブの中である(295頁)と言います。
 今日、専門家までがテキトーなことを言っていることも少なくないように思いますが、そうしたことが正確に指摘されているのは重要です。実は専門家こそは、狭い世界での思い込み(パラダイム)によって、自分の職域を守ろうとしている珍生物かもしれません。
 実際、生物学を履修しないまま医学部に進学できた時期もあるのですから、専門家といって安心していると学園祭で変なクレープを食べさせられたりするかもしれません。
 本書では、教科書でまったく触れられていない寿命や老化、癌といった問題もしっかり扱われていて、こんな教科書だったら生物学にも興味が出てくるなあ、という気にさせられます。

(新潮文庫平成16年514円+税)

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2008年8月 6日 (水)

日垣隆『定説だってウソだらけ』

 サイエンス・トークというラジオ番組から生まれた本の第5弾です。いつものように多彩なゲストがそれぞれ興味深い話をしてくれます。本書では定説に異を唱える研究者たちが気負わずにリラックスして鋭いことを言っています。
 オーロラというのは北極圏を中心とした輪になっているなんて知りませんでしたが、これを主張する赤祖父俊一氏が10年近く変人扱いされていたというのも、ま、そんなものかもしれません。氏はNASAのジェット機に乗って300時間も観測したというのですから、本当に感心させられます。
 印象深かったのは寄生虫の研究をしている藤田紘一郎氏の話で、自身のおなかの中でサナダムシを飼っているとのこと。ナオミちゃんなんて名前まで付いています。栄養価が高い食べ物はサナダムシが食べてくれるので太らないそうです。また、氏の説ではおなかの中に寄生虫を飼っているとアトピーが治るそうです。花粉症もナオミちゃんのおかげで治ったそうです。ただ、正式の治療として厚生労働省が認めることは当分なさそうですね。

(ワック株式会社2008年857円+税)

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2008年8月 5日 (火)

渡部昇一『学ぶためのヒント』

 著者お得意の人生指南書です。特に高校生に向けて書かれていますが、別に50歳になろうとする私が読んでも励まされ、勇気付けられます。考えてみれば、まだまだやりたいことはたくさんありますから、気分は高校生のころとあまり変わりません。英語の本を一冊書けるように英語の表現力をつけたいと思っていますが、これも時間ができたらやろうというのではなくて(夏休みも毎日出勤でいろいろと時間が足りないのですが)、一日に2時間とか決めて作文したりといった努力を明日からと言わず、今日からでもするべきですね。
 著者は勉強だけでなく、真向法などのさまざまな日々の努力を積み重ねて、70過ぎても股割りができるし老眼にならないし、たいしたものです。そういえば、目の訓練ってどうするのか具体的には書かれていないのが残念です。著者のストイックな姿勢はあの膨大な量の著作の裏づけになっているのでしょう。私もがんばらなくては。

(新学社2004年1648円+税)

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2008年8月 4日 (月)

白取春彦『哲学しようよ!』

 人生上のさまざまな問題にQ&A方式で哲学的に答えた本です。いろいろな工夫や仕掛けがしてあって実に読みやすいつくりになっていますが、だからといって内容のレベルは低くなっていません。問題によって答えてくれる哲学者が次から次へとちょっと凝った形で登場するのも面白いところです。新宿二丁目のカントとかオネエ言葉で笑えます。
 なかでもとりわけカントとヘーゲルの思想はわかりやすくまとめられています。ニーチェやサルトルに対する評価が低いのもこの著者らしいと思いました。本書の登場するエピキュロスの思想にはあらためて興味をもちました。エピキュロスの、苦痛や不快を避けて快楽だけを追求するという思想は、本書によると、どうやら思いっきり誤解されているらしいです。
 それにしても、あらためていろんな哲学者の思想のエッセンスを具体的な問題にあてはめてみると、やはり哲学者というのは変なやつらだなあとつくづく思います。ヘーゲルなんてホラー哲学だとは著者の理解ですが、世界精神という亡霊のような思想が自己展開しながら世界を支配しているなんて、かなりあっちの世界の発想かもしれません。

(すばる舎2004年1400円+税)

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2008年8月 3日 (日)

日垣隆・岡本吏郎『世界一利益に直結する「ウラ」経営学』

 経営に関する様々なヒントがたくさん得られる本です。特に第5章の「《経営者の資質》この社長なら会社は安心か?」にはどきっとさせられました。うちの会社、はっきり言って不安です。
 経営コンサルタントの岡本氏によると、「現実を直視できる人は、全体の2割しかいません」(146頁)ということですが、これからして、もういけません。明らかに8割の方に入ってしまっています。さらに経営者というものは「もう間に合わないというところに来たときには、残念ながらもっと変化しない方に行くんですね。人間というのは、うまくいかなくなると、さらに同じことを繰り返す動物なんです」(153頁)とあります。
 今の社長になって、何もしてこなかったと公言しているくらいですから、何もしないというパターンをこの10年近く繰り返しているわけです。そして、こうして困れば困るほど現状維持の罠にはまっていくのがどうやら典型的なダメ企業のパターンのようです。あまりにもハマりすぎていて怖いくらいです。これでは岡本氏のようなカリスマ・コンサルタントでも匙を投げられるのではないでしょうか。
 それはさておき、本書では会計常識や価格設定といった経営戦略について具体的な助言がなされていますので、独立を目指す人にとっても役立つと思います。著者たちは「マクロの話が好きな人は問題解決能力が低い」と言っていますが、実際に本書の内容は具体的な提案や気づきに満ちています。いい本です。

(アスコム2008年1400円+税)

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2008年8月 2日 (土)

新藤宗幸『財政投融資』

 財政投融資は戦後のわが国で、官僚の打ち出の小槌として機能してきました。簡保や郵貯を財源として好き放題に使っては、結果として天下り先の特殊法人と負債だけが残る仕組みになっています。本書はそうした財政投融資の沿革と2001年の改革以降の状況が正確に描き出されています。
 それで、結局2001年改革はどうだったかというと、「組織の『衣替え』にすぎなかった」(75頁)と見事に言い切っています。入り口としての郵政民営化は、郵便貯金銀行も郵便保険会社も実態として「国債消化機関」になったにすぎないわけですから、やはり衣替えでしょうね。
 したがって、著者によれば、「郵政民営化をめぐる一大騒動は、『衣替え』によって既得権益を護ろうとする集団と、既存制度の『温存』によって既得利益の維持をはかろうとする集団との争いにほかならなかった」(224頁)ということになります。これはその通りでしょう。昨日の組閣を見ていても、政治家は誰も本気で改革なんて考えてこなかったんだということだけはわかります。官僚連中は大喜びでしょう。(ついでに言えば、経済産業相や防衛相の名を見て、中国共産党も喜んでいます。)
 しかし、いつまでもこうやって官僚たちを喜ばせているようでは、本当に国が沈んでしまいそうです。

(東京大学出版会2006年2600円+税)


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2008年8月 1日 (金)

岡野雅行『世界一の職人が教える 仕事が面白くなる発想法』

 本書の特徴は話題がより具体的で詳細なことです。例えば、著者が玉の井のお姐さんたちにいろいろ教えてもらったというのは、具体的には太鼓持ちのようにしてくっついて歩いたということが、本書ではよくわかるように書かれています。おそらく編集者兼インタビュアーが著者に対してかなり具体的にどうしたのかということを聞いたのでしょう。ただ録音を起こしておしまいにはしていません。さすが、この手の本をたくさん出している出版社だけに、かなりいいセンスで編集されているように思います。
 また、著者が子どもの頃、防空壕に入って遊んでいていたら、その防空壕が崩れてきて、中に取り残されてしまったというエピソードは本書が初めてです。そのとき著者のお母さんが、ヤクザのお兄さんたちにタバコを配って穴を掘って助けてもらったということですが、著者の母上の機転のききかたも普通ではなかったように思います。
 この二つ以外の話はほとんど他の本にも出てくるのですが、やっぱり何度読んでも新鮮で面白く、損した気にはなりません。同じ話でも何度も聞きたくなります。

(青春出版社「青春文庫」2008年524円+税)

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