« 野口悠紀雄『金融工学、こんなに面白い』 | トップページ | 斎藤美奈子『たまには時事ネタ』 »

2008年11月15日 (土)

秋元松代『常陸坊海尊/かさぶた式部考』

 著者の「七人みさき」の不気味な魅力が頭の中に残っていたので、本書にも引き寄せられたのでしょうか。日本文化の深いところまで降りていって、それに見事な言語的表現を与えた作品です。
 戯曲の形をとっていますが、上演していて良い芝居になるかどうかはわかりません。じっくり考え抜かれて丁寧に構成された戯曲ですが、カタルシスまで至らないような気もするからです。なにせ読みながら「こうなってほしくないなあ」と直感した方向に追い立てられていくような芝居で、日本の伝統的な美しさと隣り合わせにある「一歩間違ってしまったおどろおどろしい情念」が怪しい負のオーラを放っているのです。性の問題の描き方も不気味です。たくましいとも言えますが、この点残念ながら私の趣味ではありません。
 著者の作品は中上健次には明らかに影響を与えています。「岬」や「枯木灘」以降の作品はスタイルの違いでしかないくらい、抱えている問題が同質のものです。対談を読んだときから「あれ」とは感じていましたが、ここまで深い影響があったとは思いませんでした。中上の晩年の作品は読んでいませんが、この世界からさらに抜け出ることはできたのでしょうか。
 でも、ここからさらに抜け出るというのは、作品の中で世阿弥のように成仏させてカタルシスを得たりするしかないのかもしれません。
 いずれにしても『七人みさき』同様、しばらくは夢に出てきそうな戯曲です。演劇関係の人の感想を聞いてみたいですね。この美しい悪夢のような作品もやはり演じてみたいと思うでしょうか。

(講談社文芸文庫1996年913円)

|

« 野口悠紀雄『金融工学、こんなに面白い』 | トップページ | 斎藤美奈子『たまには時事ネタ』 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。