片倉もとこ著『イスラームの日常世界』
以前から著者の名前は知っていましたし、新聞に掲載されたコラムなども読んでいましたが、専門が文化人類学とは知りませんでした。そして実際本書はフィールドワークをしなくては書けない貴重な情報に満ちています。
イスラム文化はコーランだけ読んでいてもよくわからないことが多々あるのですが、こうして日常生活をスケッチしてもらうと、本当に理解の助けになります。
それにしても、この文化は日本文化からはあまりにも遠いため、日本人の異文化理解度の試金石になるところがあります。今後、大学の講義でも折に触れて内容を紹介していきたいと思います。
最も印象深かったのは、イスラム教徒にとって「断食月は楽しい」時期で、盆と正月が一度に来たような華やいだ期間になるということです。日中はあまり活動できなくなりますが、瞑想にはむしろ適しているという指摘にも、なるほどと思わされます。イスラム神秘主義というのもこうした瞑想から生まれてきたのでしょう。
また、イスラム圏では一般的に女性の権利が認められず、抑圧されているという印象が強かったのですが、本書では実は女性の社会進出が早くから進んでいたことも教えてくれます。ベールで顔を覆うとむしろ男性は女性を尊重してくれて、女性の方も容姿を気にせずに実力で勝負できるとのことです。男性の視線から自由になるという利点があったのですね。
この点で元々女性が強かった文化だから、コーランでそれを制限しているという見方もできるという指摘にも一理あると思います。本来男性よりも女性の方が強いというのは万国共通なのかもしれません。
また、メッカ巡礼のイスラム教徒独特の平等な連帯意識についても言及されていますが、信徒の口を通して語られる言葉を読むと、なるほど身近に感じられます。やはり半端な宗教ではありませんでした。
本書は井筒俊彦『イスラーム文化』とともにイスラム理解のための必読文献に挙げられるべき本だと思います。
(岩波新書1991年550円)
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