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2008年12月23日 (火)

井筒俊彦『イスラーム生誕』

 著者が若いころに出版した『マホメット』と、そのほぼ30年後に出された『イスラームとは何か』が、それぞれ第一部、二部として合本になったものが本書です。ネット書店で注文した講談社学術文庫の『マホメット』は本書に含まれていました。一瞬損したかと思いましたが、解説の詳細さという点からすると学術文庫版も決して無駄ではありませんでした。
 それはそれとして、本書の第一部の情熱的な語り口は人を動かすところがあります。若さがこのように出てくるのだったら歓迎です。第二部も確かに若くはないにしても、情熱的な点では変わらないものを感じさせてくれます。著者はおそらくこういう芸術家的な「熱さ」を持っている人だからこそ、あれだけの仕事ができたのでしょうね。
 本書ではイスラム教成立以前のかの地の文化(ジャーヒリーヤ)との闘いの中からイスラム教が形成されてきたことが特によく分かるように書かれています。その後のユダヤ教、次いでキリスト教との闘いと同じかそれ以上の比重を、このジャージリーヤとの闘いに置いているのが印象的でした。
 特に第二部では原典の文献をきっちりと読み込むことを通じてこのことが論証されているので、説得力があります。こういう風に文献に当たって歴史を再構築する手法は見事です。脱構築とかいう前に具体的研究としてあっさりやってしまえるところが、デリダなんかが著者を深く尊敬していた理由でしょう。
 宗教の比較文献学的アプローチは、良くも悪くも「無宗教的な」日本人の得意技でもあります。宗教的空間の中にいると簡単にはできません。下手なことを言うと殺されかねないからです。しかし、わが国ではこれを江戸時代の富永仲基がすでにやってくれています。彼の感覚はすでに現代日本人と変わらないように見えます。ある意味でこれは日本文化の伝統と言えるのかもしれません。

(中公文庫1990年762円+税)

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