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2008年12月24日 (水)

養老孟司『超バカの壁』

 どこまでも論理的になれるのも人間の脳の働きの特徴ですが、著者は実際にはこれまでの著書で一貫して、割り切れないものこそが重要だということを繰り返し述べています。著者の他の本の題名に『唯脳論』というのがあるため、世間は彼を論理主義者だととらえる向きがあるようですが、誤解です。読めばわかるのですが、読まないのが世間ですから仕方ないのかもしれません。
 脳が暴走すると論理主義や原理主義になってしまうわけで、その危険をこれでもかというほど論じているのが著者です。ただそのことを言うためには論理で行けるところまでは行かなくてはなりません。論理で攻めても割り切れずに残っているところは、実は大変厄介でかつ面白いことなのですが、そのことが浮かび上がるように書くのは、半端にものを考えていてはできない技です。
 しかし、それにもかかわらず著者のメッセージが伝わりにくいのは、世間のいたるところに論理主義や原理主義の種が蒔かれてはちょくちょく発芽しているからでしょう。幸いなことに戦後60年の間は、そうして発芽したものもあまり大きく成長することはありませんでした。今後はわかりませんけどね。
 それで、著者の本を作っているスタッフの人たちは、そのことも含めて著者の本と世間との関係がよーくわかっているので、ちょっと共犯者っぽく、楽しそうに編集しているのではないかと想像します。今回は意外に売れたねとか、もうちょっといけるはずだけど、なんて言いながら、競馬の予想でもするような感じで仕事ができるとしたら、楽しいでしょう。もちろん、それもこれも基本的に売れる本でなければ始まりませんが。
 というのはまあ単なる妄想ですが、本書は著者が本音で語っている分だけ、『バカの壁』ほどには売れなかったかもしれません。古本屋にもあまり出ていませんから。でも、読んで損はありません。面白かったです。

(新潮新書2006年680円+税)

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