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2009年1月29日 (木)

髙山正之『変見自在 スーチー女史は善人か』

 なるほどそうだったのか、と腑に落ちることが沢山書かれています。山本夏彦が亡くなり、池田晶子も亡くなったため、コンビニで週刊新潮を立ち読みする習慣もなくなって久しかったのですが、こんな連載があったとはねー。根強いファンがいるのもうなずけます。
 著者は国際情勢のややこしい話も連載枠の限られた枚数の中で手際よくまとめてくれていますので、ミャンマーやベトナム、カンボジア、中国、中東の紛争地域などの歴史のポイントがすんなり呑み込めます。このあたりの手際のよさはさすがジャーナリストです。沢山本を読んでも学者みたいにひけらかさずに、短い表現に凝縮してまとめてしまう姿勢が爽やかです。
 それにしても、アメリカの議会での公聴会報告書なども読みこなす語学力は半端ではありません。その広い情報源に、実際に著者が取材で拾い集めた驚くべき話も加わって、説得力が倍増します。以下に数字だけでも驚かされた例を少し挙げてみます。

・第二次大戦時にアメリカ軍はフランスで1万2千人の命を失っている。
・マッカーサーは戦後の脱脂粉乳代として5億ドルを取り立てた。
・朝鮮戦争でのアメリカ軍の支社は5万4千人。
・文科省の元役人をトップに据えた公益法人「日本学会事務センター」は設立後ただちに自社ビル建設をはじめ10億円をつぎ込み、負債16億円で破産してしまった。責任は不問。
天下り理事長の退職金もそのまま支給。
・中国のHIV患者は84万人。日本は1万2千人。
・オランダはインドネシアの独立運動の際に80万人を殺し、インフラの引渡し代償として60億ドルを請求した。スカルノはそれを呑んだ。
・作家のアンドレ・マルローはカンボジアから観音像とレリーフを持ち出し、ニューヨークに送って5万ドルで売り飛ばすつもりだった(が、捕まった)。
・アメリカでは妻を暴力沙汰で病院送りにしたケースが年間400万件あり、殺された妻が年間3千600人にのぼる。また、殺される手前で反撃して逆に夫を殺すケースが年間500件ある。
・黒死病がヨーロッパで流行ったとき、ドイツでは「ユダヤ人が毒をまいた」という噂が立って、マインツで1万2千人が焼き殺されたほか、各地で虐殺が行なわれた。
・オーストラリアにいた600万人のアボリジニは虐殺された結果、現在30万人が生き残っている。
・ホメイニ時代のイランでは、女性は化粧が濃いというだけで10回から20回の鞭打ちの刑を受けていた。
・ペルーのセンデロ・ルミノソはフジモリ氏に滅ぼされるまで3万人を殺し、600人の子供を誘拐していた。
・インドではこの20年間続けて女児の出生率が男児より10%以上も下回っている。(少なくとも毎年50万人の女児が堕胎されている。)

 とまあ、ちょっと挙げ過ぎたかもしれませんが、へぇーって感じでしょう。こうした数字だけでも踏まえて国際ニュースを見ると、理解の仕方も変わってくると思います。
 朝日岩波とその提灯持ち知識人は昔から外国を理想化し、わが国を侮蔑することしばしですが、このコラムの読者のほうが、この世に天国はないということを承知していることでしょう。そして、提灯持ち知識人の胡散臭さもしっかりわかっていると思います。
 ジャーナリスト畏るべしです。

(新潮社2008年1400円+税別)

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