鈴木範久編『新渡戸稲造論集』
この連休で、ようやく本の原稿を脱稿しました。普段研修日にも授業や事務仕事で出勤するので、連休はありがたいです。昔専門学校に勤めていたときのほうが、はっきり言って時間がありました。ほんとに名ばかり短大教員です。まだ翻訳の仕事が残っていますが、いずれにしてもこれで電車の中の仕事が一段落しましたので、多少本が読めると思います。
さて本書は飾り気のないざっくばらんな書き方ですが、ヨーロッパの根本的な思想と歴史がしっかり把握されていて啓発されます。親しみやすい語り口ですが、内容は決して軽薄ではありません。ときにはっとさせられます。
特に面白かったのは、イギリス人は自由を人生や生活と経理はなせないものと捉えているのに対して、これを輸入したフランス人は自由の活用法をほとんど知らないと述べているところです。
「英吉利ではこれはライフであるから、人生の木は常に緑なり、自由というものも緑の木の如く栄えて生き生きしている。仏蘭西は説だけ持って来て、ライフそのものを忘れて来た。仏蘭西革命において、かのマダム・ローランドがギロチンの上から叫んだように、ああ自由よ自由よ、汝の名において、幾何の血が流れたであろうか、といって嘆かしめた。そのはずである。ライフとセオリーとをまだ消化し切れなかったのである」(231頁)。
なんとなく自由といえばフランス革命以来フランスの専売特許みたいに思われがちですが、これがイギリスからの輸入思想だったということは、言われてみればそのとおりです。フランス革命の100年以上前から自由をめぐって争ってきたのがイギリス人ですもんね。そして、輸入思想が簡単には身につかないことは、わが国だけの話ではないようです。確かに昔行ったときに感じたのですが、パリよりロンドンのほうが自由な雰囲気を感じたのも、そのあたりに淵源があったのかもしれません。
他にも鋭い指摘がたくさんあります。実感としてこんなにいろいろなことが分かっていて、さらりと語ることができる人は当時もそうだったでしょうが、今の知識人でもほとんどいないのではないかと思います。
(岩波文庫2007年800円+税)
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