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2009年3月22日 (日)

前田耕作『宗祖ゾロアスター』

 ゾロアスター教が古代ギリシャ思想やユダヤ・キリスト教に与えた影響には絶大なものがあります。本書はその影響の影の部分から元の姿をとらえようとする文化史的・精神史的試みです。ヨーロッパ人はこういう物事の本質を瞬時に悟ってしまうような思想は怖くてたまらないのでしょう。それに様々な魔術的妄想が付与されてきたため、元の形はますますわからなくなり、怪しいイメージだけが先行していますが、むしろこれはヨーロッパの怪しさの投影でしょう。対抗して出てきたキリスト教文明の方がはるかに暴力的で悪魔的な力を全世界にふるってきたのですから、怖いのはそっちです。
 本書ではゾロアスター教の中心思想の構造がきっちりと分析されているわけではないので、その点についてはほかの本で補う必要がありそうですが、ゾロアスター本人の伝説とゾロアスター教を取り巻く状況はよくわかります。
 なかでもとりわけ印象的だったのは、初めて聖典とされる『ゼンド・アヴェスタ』を翻訳したフランス人アンクティル=デュペロンの情熱です。現地に長期間滞在しペルシャ語を習得しては原典かどうかを確かめつつ翻訳するという大変な仕事をした人がいたんですね。
 また、ニーチェのツァラトゥストラは言うまでもなくゾロアスターのことですが、ギリシャ思想については覚え違いや勘違いの多さで知られたニーチェらしくなく、ゾロアスターについては意外にも当時の研究を結構正確に参照していたことがわかります。
 文庫版あとがきに、ゾロアスター教がイランだけでなく、今日インドやパキスタンの一部でパールシー教という生きた宗教として生き残っていることが書かれています。著者にはそのあたりを調査した仕事もあるのでしょうか。あったら読んでみたいと思います。

(ちくま学芸文庫2003年1,000円+税)

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