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2009年5月 2日 (土)

『ベーコン随想集』

 ベーコンの人間観察の鋭さが窺われる本です。論文に引用するというほどではありませんが、ベーコンが単なる書斎派でなく、実生活でもいろいろと苦労があった人だったことが偲ばれます。本書では具体的で実践的な問題への対処法が披露されています。感心させられたところを少し引用してみます。
 「大胆は無知と卑劣の子であって、他の資格よりはるかに劣るのである。しかし、それにもかかわらず、それは判断が浅薄であったり勇気がなかったりする世間の大多数の人を魅了して、手も足も出ないようにしばる。それどころか、賢明な人々にも弱気になっているときには効果がある。そんなわけで、われわれは大胆が民主的な諸国において驚嘆すべきことをなしとげたのを見るのである」(60頁)
 何だかいわゆるひとつの「小泉劇場」のような感じです。昔からこの手の人間は何一つ変わっていないようですね。
 全編こうした知恵や警句の類が随所に出てきます。ベーコンがシェイクスピアと同時代人という事実も頭に入れて読むと、余計楽しむことができます。次のような文学的な比喩もなかなかのものです。
 「運命の歩みは空の銀河に似ている。銀河は多くの小さな星の集合もしくは塊である。小さな星は散在してよく見えないが、いっしょになって光っている。同様の、多くの小さな、ほとんど見分けのつかない徳性が、というよりむしろ能力や習慣があって、それらが人をしあわせにしているのである」(179頁)
 この後、「少し愚かなところ」と「バカ正直でないこと」が幸せにつながるという論理展開もユニークですが、ここだけでもなかなか味わい深いものがあります。話題は多岐にわたりますが、注釈が細かく付けられていて、理解を助けてくれます。
 かつて師匠から各世紀から一人ずつ選んで、現代思想の潮流の中で混乱しそうになったら、読み返すようにするといいと言われたたことがあります。今までは十七世紀はデカルト、十八世紀はカント、十九世紀はヘーゲルを折に触れて読んできましたが、これから十六世紀から十七世紀にかけての哲学者としてベーコンを加えたいと思います。

(渡辺義雄訳、岩波文庫1983年620円)

 

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