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2009年5月16日 (土)

セネカ『人生の短さについて』茂手木元蔵訳

 ベーコンを読んでいるとしょっちゅう名前が挙がるので、読んでみました。めっぽう頭がよく、政治権力の中枢にもいたこともあり、この世の絶頂もどん底も経験した人だけに、ストイックなことを言っても(ストア派の系譜に位置づけられる人ですから当たり前ですが)、辛らつな批判をしても説得力があります。足りないことがあるとしたら「可愛げ」でしょうか。教え子のネロから殺されるなんてのは、ネロもとんでもない人ですが、どこかで敵と思わせるところがあったからでしょう。周囲の雑音に邪魔されないストイックな生き方というのは謀殺を防ぐことにはならなかったようで、また、それを本人も運命としてまともに受け容れてしまうのが、すごいけど可愛くないところでしょう。解説にリヴィウスの筆によるセネカの最後が引用されていますが、見事な運命の受け容れ方です。歴史家が書き留めたくなるのも道理です。
 かつては権力の中枢にもいてその影響力をふるった人であるだけに、権力者の心理がよくわかっている人です。その俗物的側面をえぐり出すような描写はかつての自己批判も含んでいるのでしょうが、異様なほど鋭いので、死刑を命じられる原因を自らあえて作り出しているのではないかと疑われるほどです。これでは引退してから言いがかりを付けられても仕方なかったのかなという気がします。口は災いの元とは言いますが、それを地でいく人でしょう。他山の石としなければ。くわばらくわばら。
 しかし、単なる学者とは違って、権力者の猜疑心と恐怖感にさいなまれる心理を見事にとらえています。その点ではイタリアのG・フェレーロのご先祖さまのような人です。

(岩波文庫1980年460円)

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