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2009年5月27日 (水)

橋本治『いま私たちが考えるべきこと』

 世の中には「自分のことを考える」のがそのまま「他人のことを考える」になってしまう人がたくさんいると著者は言います。共同体を中心にすべてを考えていれば、人はそうならざるをえないでしょう。ムラ社会であっても、会社であっても同じです。そこにある「私たち」の本質を著者は「前近代」ととらえ、答えのない未来に向かって自分で考える「私」を「近代」として対比させて考えています。これは著者による実に新鮮な社会学の試みです。社会学のややこしい問題もこの見方をとることで、すとんと腑に落ちるところがあります。
 著者がすごいのは次のようなことをさらっと言ってしまえるところです。
「いま私たちは『自分の所属する“自分たち”』を超えた、『私たち』を考えなければならない」(147頁)
 そして、この「私たち」というのは前近代のように答えが過去にあるようなものではなく、「自分と他人とで作り上げるもの」となります。これは実に魅力的な社会理論です。今日の先端の社会科学の理論的達成とも重なる点がありますが、著者は外来の思想などに一切頼らず、あくまで言葉と論理だけを用いて、ここまで考えています。今日のわが国が誇るべき思想家の一人です。
 私が昔フランス語を教わったY先生は橋本治と東京大学で同じクラスだったそうですが、当時文学的な志の高かった同級生のうち「作家として筆一本で食べているのは橋本治だけだ」とおっしゃっていました。しかし、いつの間にか思想家にもなっていたとは、これまた大変なことです。
 また、内田樹は橋本治の論理と小田嶋隆の文体に影響を受けたとどこかで言っていました。この論理に小田嶋隆の文章の呼吸が加われば内田樹になると言われると、なるほどそんな気もしてきます。

(新潮社2004年1300円税別)

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