岩田靖夫『いま哲学とは何か』
ソクラテスに始まり、ハイデッガーやロールズまできっちりとフォローされていて、これ一冊で西洋哲学小史のような趣がありますが、それぞれの解釈がしっかり考えられていてユニークで、教えられるところが多々ありました。
なかでもとりわけ、ソクラテスの「無知の知」というのは人間が自己絶対化に踏み込むことを許さない知恵だという見方は新鮮でした。「人間が自己絶対化に踏み込むとき、自己神化が起こり、他者の抹殺が起こるのである」(11頁)とあります。それはまあ、ちょっと論理が飛んでいる気もしますが、そうかもしれません。それで、対話の精神は「自己絶対化の放棄であり、異なるものに対して開かれた心を持ち続けることである」(12頁)となるわけです。
実に若々しい思想です。そもそもソクラテスがそうだったのでしょうが、終章も再びソクラテスへの共感が語られます。死んでも不正を犯さなかったソクラテスを「加害行為を根絶するために、一切の復讐を放棄した」(202頁)と見るわけです。ここまでくるとそれはいうまでもなく宗教的な境地ですが、そうした「宗教的な境地への畏敬の念を失えば、人類に未来はないであろう」(同頁)とくるわけです。
ちょっとナイーブすぎるので、私のようなすれたおっさんにはつらいところもありますが、著者の人となりが上品な感じがするのでOKです。岩波新書を読むまじめな若者たちには(きょうびそんな若者なんて絶滅危惧種のように珍しい存在なのかもしれませんが)ぴったりだと思います。そういうのもまた大事だよねと最近は若さということにも寛大になりつつあります。これもまた加齢のなせる技でしょうね。若者といっしょにいるだけで感動することがあります。
なーんて思いながらいっしょにバスケットボールをやっていたら、先週ひどい捻挫をしてしまい、ギプスと松葉杖を余儀なくされました。歩けるようにはなりましたが、まだ完治していません。年甲斐もなくがんばって、久々に二桁得点したと思った矢先でした。ま、そんなもんですね。でもまた懲りもせずにやるんだろうね。われながら阿呆です。
それはそれとして、今書いている本の最後に少し加筆することになったので、この機会に『ソクラテスの弁明』にはもう一度目を通しておく必要がありそうです。
(岩波新書2008年700円+税)
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