野村雅一『身振りとしぐさの人類学 身体がしめす社会の記憶』
昔英語科の先生が飲み会の席で、一つ二つと例に挙げながら何かを話されていたとき、何気なく手の甲を相手に向けてVサインをする形になったとき、同僚のオーストラリア人の先生の表情が引きつっていたことを覚えていますが、本書を読んで、それがどんな意味かわかりました。なるほどそれはまずいよね、ということは文化摩擦の中でしばしば起こってきますが、一般的には人を指さすことも危険のようです。
本書はジェスチャーの人類学であり、比較文化論です。話の小ネタにするにも新書としてはかなりの量のトリビアな知識が詰まっている本です。印象的な話がたくさんありすぎて覚えきれません。比較文化論の講義の前にぱらぱらと読み返すといいかもしれません。
ただ、本書はそれだけにとどまらず、最後の方の「しぐさの逸脱」という章で、物忘れや運動障害についても考察していて、ひと味違います。著者が言うところの「身振りの思想史」というものが意図されていて、問題提起としてもかなり意欲的なところが感じられます。フロイトによって無意識のしぐさの意味づけがまったく新たなものとなったことや、映画の語法がクローズアップや単なる補講というものにも演技の余地を与えるに至ったという指摘などは新鮮です。
言語や意味だけにとらわれすぎて窮屈になっている思想を身体による表現の側から解きほぐすという可能性も感じさせてくれ。る本でした。
(中公新書1996年680円+税)
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