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2009年6月14日 (日)

長谷川慶太郎『日本は「環境力」で勝つ』

 シュワルツネッガー知事がカリフォルニアでハイブリッドカーに対して優遇措置を行なっていることは少しは耳にしていましたが、本書で初めてそのとてつもない実態がわかりました。高速道路の優先車線(リザーブ・レーン)を無条件で走れるだけではなく、パーキングメータの超過料金も払わなくていいというもので、実態はホンダやトヨタのハイブリッドカーの優遇です。当然ながら激しい抗議をしてくるアメリカの自動車会社に対しては「悔しかったらハイブリッド車を作って来い」と言って一蹴しているとのこと(59頁)。
 ところがアメリカの自動車産業界では「機械工」と「電気工」は同じ会社で働いていても、それぞれ別の職種組合に属していて、現場ではお互いに対立しているため、協力なんかできっこないそうです。わが国の大学の教員と職員以上に対立しているわけです。ということは、ガソリンと電気を組み合わせて走るハイブリッドカーは開発しようにもできない状態なのでしょう。
 それにしてもいつもながらよく小まめに取材されていて感心させられます。著者は80歳を過ぎても年に何度も現場に足を運ぶそうですから、体力気力とも衰えていません。本書では著者お得意の鉄鋼業界の最新テクノロジー事情もわかります。溶けた鉄鋼を何千分の1秒かの文字通り瞬時に成分分析し、その情報をただちにフィードバックしては鋼材の質をコントロールするというようなことは世界一の技術水準のなせる業です。
 この技術は本書には書かれていませんが、おそらくゴミの焼却処理における温度設定にも役立てられているはずです。有害物質を出さない温度というのがありますから。実際、今日の製鉄所はもはや煙突からは水蒸気しか出していません。それまでに出てくる成分はすべて再利用しているからです。
 というわけで、環境保全にわが国の技術が有益であることは論を待たないのですが、一般的な新聞報道では、日本が環境保全技術の先進国だという話はあまり聞こえてきません。たとえば環境保護先進国とされるドイツなんかより劣っていると思っている人が多いのではないでしょうか。
 確かにドイツは表面的には容器リサイクルなど市民総出で潔癖症のように取り組んでいると伝えられますが、現地調査に行った知人の話では、最終的に処理に困った廃棄物はすべて森に穴を掘って埋めているそうです。そこから地下水の汚染がそろそろ始まるはずですけど、どうするんでしょう。
 ナチの協力者を告発してきた風潮と似ていて、ドイツ人の政治行動は表面的には派手ですが、その目的は別のところ(自分たちが他から民族差別を受けないためとか)にあるのではないかと疑われてきます。ワルなのかバカなのか判断に困りますが、政治家について言えば明らかに前者です。
 かの有名な京都議定書での二酸化炭素削減目標でも、わが国のナイーブな政治家はドイツの巧みな数字のトリックにまんまとしてやられたのですが、そのことに気がついてすらいないようです。バスに乗り遅れまいとしてドイツについて行っては、とんでもない痛い目にあったのはそんなに昔のことではありません。
 少なくともドイツ人に関して言えば、戦前も戦後もその行動パターンや思想は変わっていません。戦後に人格も思想もリセットされて自国民のみならず諸国民はすべて平和主義者になったと信じているのは日本人だけです。もちろん、それはまたそれで自覚症状のない病人の類には違いないのですが。

(東洋経済新報社2008年1500円+税)

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