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2009年7月14日 (火)

『世界の大思想6 ベーコン』

 岩波文庫の『ノヴム・オルガヌム』に感心させられたので、帰納法についてほかに何か面白いことを言っているかもという期待をして「学問の進歩」「ノヴム・オルガヌム」「ニュー・アトランティス」の三巻が収録されている本書を読んでみました。
 結果としては「ノヴム・オルガヌム」の第一部と「学問の進歩」の後半部分に面白い記述がありましたが、それだったら岩波文庫で間に合っていました。ちょっと徒労感がありますが、ま、そんなものでしょう。ベーコンにしても、そうそう鋭いことばかり言ってもいられないでしょうし、帰納法というのが事物に語らせるものである以上、あまり理屈をこねくり回さなくてもいい、という側面があるのかなという気もします。
 ベーコンは氷に塩を混ぜると温度が氷点下に下がることを見つけた人でもあり、きっと科学的実験は大好きだったのでしょう。アイスクリームなんかは作ってみなかったのでしょうか。アリストテレスもよく読み込んでいて、実験の論理を支える思考法について様々な提言をしていますが、さすがにこのあたりは当時の科学の限界もあって、ちょっとついて行けません。ただ、文章の調子がいいので内容がつまらなくても、さほど読むのが苦痛になりません。
 本書でちょっと面白かったのは、未完ながらSF小説のような「ニュー・アトランティス」で、大アトランティス大陸が滅びた陰でひっそりと高度な文明を維持していたニュー・アトランティスというユートピアの話です。ベーコンにこんな側面があったんだと驚かされます。ガリバー旅行記のような毒に満ちたものではありませんが、それなりに楽しめました。名文家としてのベーコンの持ち味も十分に出ていて、これは是非とも生前に完成させてほしかった小説です。もっとも、この先をどんどん書き続けたら、かなりの長編になっていたはずですが、還暦を過ぎて書き始めて、65歳で没したベーコンには、そこまでの時間は残されていなかったのかもしれません。

(服部英次郎、多田英次、中橋一夫訳河出書房新社昭和44年)

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