星新一『人民は弱し 官吏は強し』
星新一のお父さんの伝記小説です。タイトル通りのお話で、自身の起こした製薬会社の経営を官僚組織が手を変え品を変え嫌がらせをし、会社の経営を立ち行かなくさせていく様子が見事に描き出されています。うんざりする内容ですが、著者はさすがに小説家です。読者を飽きさせない語り口は見事です。
本書を読んで、官僚は仕事をしないというのは神話だということが分かりました。人を陥れたり罠にはめたりという仕事ならおそらく寝る間を惜しんでアイデアを出し、驚くべき集中力を発揮しているのだろうと想像されます。畏るべし官僚軍団。ゆめゆめ甘く見てはならないということですね。
わが国を本当に支配してきたのはやはり官僚組織ですが、同時に民間の築き上げてきた資産を食い潰してきたのもその同じ彼らだったということが、本書を読めばよーく分かります。
今は政権交代が現実味を帯びてくることで、少しそこに風穴が開きつつありますが、彼らの悪知恵はすでに民主党政権のその先を見ているのではないかと想像します。
それにしても主人公の星一さんは立派です。官僚からどんなに執拗な嫌がらせをされても、いつも快活で、決して泣き言をいわず、へこたれません。戦前の官僚は今よりはるかに威張っていたようですが、たいしたものです。でっち上げられた事件でも彼が最高裁で無罪を勝ち取るに至ったのは、日本の司法界のトップが当時健全であったことを物語っていて、多少ほっとしました。(今は知りませんが、かのロッキード事件は最高裁の試金石だったはずでした。残念。)
しかし、政界、マスコミを挙げて官僚に操られているというのは、戦前からあったんですね。読んでいて思わず今のことかと錯覚してしまったほどです。
それにしても、当時も今も、官僚はスマートで表にあまり出てこない気がしますが、たまにテレビなんかに出てきたら、案の定とんでもない卑しい顔をしていて驚かされます。本人は気がついていないでしょうけれど、あれは人生経験を積んだ大人の目には明らかにバレていますよ。「うわ、ひどい顔だね、こりゃ」と思わず口走ってしまう人が全国のお茶の間には少なからずいると思います。
しかし、この小説に出てくるようなことをずっとし続けてきたら、あんな顔になってしまのも道理だな、と思えてきます。
(新潮文庫昭和53年476円税別)
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