ジョン・ロック『人間知性論(三)』
第3巻は言葉の使い方と正しい意志伝達についての議論が中心です。真偽の問題は命題のそれであるという発想がちらりと出てきたりするのは、言語分析のさきがけといえるのかもしれません。事物につくような単純な観念が連合したり、複雑な観念になったりするのは全部人間の側の都合だというところはロックらしいところですが、実体論的根拠がなくて唯名論的認識だけでもその実在性を人が疑っていない例として、「霊」の存在を挙げていたりするのは現代的でなくて面白いところです。実際「諸霊」の問題としていくつかの場所でページを割いてさえいます。思えばカントまでは霊魂の不滅は真剣に考えられていましたが、哲学が科学に近づこうとすると、この種の問題は避けられるようになるのかもしれません。
正しく物事を認識し、正しく相手に伝えるためには事物につくことと、言葉の誤用を避け、定義をしっかりすることだというのが単純化した本書のメッセージです。この点でロックは法学や政治のレトリックは認めていないどころか目の敵にしてさえいます。しかし、表面的には単純ですが、実は懐は深いものがあります。
というのも、事物につくために必ずしも知性が役に立つわけではないことをロックはよく知っているからです。たとえば、
「実在の本質を洞察したとすこしも称さず、実態的形相に苦労もせず、事物の可感的性質で事物相互を知ることに甘んじる無知な者が学識ある慧眼の人々に比べて、すなわち、事物をたいへん深くのぞきこんで、奥深く隠れた本質的なある事物についてたいへん自信をもって語る学識ある慧眼な人々に比べて、事物の違いをしばしばいっそうよく識り、事物を使うところからいっそう見事に区別でき、それぞれから期待してよいことをいっそうよく知ることができるのである」(168頁)
という感じです。
そういえば、マイクル・ポラニーがロックを結構高く評価していたのは、このあたりの感性を評価してのことだったのかもしれません。
(大槻春彦訳岩波文庫1976年第2刷1997年760円+税)
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