ウエイン・W・ダイアー『ダイアー博士のスピリチュアル・ライフ』
自然や宇宙との一体感を感じ、そのエネルギーを受け止めて発揮できるようになれば、奇跡のような偶然と幸運に巡り会うことができるようになるというのが本書のメッセージです。
確かに穏やかな心持ちで毎日を送り、笑顔を絶やさず周囲の人びとに善行を施し続けると、その人自身のうちに宇宙の無限のエネルギーを呼び込むことになるのかもしれません。実際、マザー・テレサは生前のインタビューで「今まで一度もお金に困ったことはない」と言っていました。困りそうになると世界のどこからか必ず救いの手が差しのべられたそうです。
周囲に変な人や困った人がいても、その人たちは自らの魂を磨くための名教師だと思わなければならないそうですが、これはなかなか抵抗があります。大学のようなところは一般企業以上に変な人ばっかりですよ、とはサラリーマン経験者の職員の談ですが、実際、教師とは呼びたくないような大学教師ばかりです。これは魂を磨くチャンスにあまりにも恵まれすぎているというべきでしょうか。
しかし、とにかく自分の心がけ次第でどうにかなることは思いの外たくさんあることを教えてくれる本です。やはりこの世は魂の修練の場のようです。スピリチュアリズムの人びとはみんなこの感覚を持っているようですが、こう思えたとたんにすでに問題の多くが解決しているように思われます。
本書で理想とされ、著者本人も実践している生き方には、禅宗の修行で高い境地に達したお坊さんのような快活さがあります。何を見ても「呵々大笑」という感じで、周囲の人びとも幸せにしてくれるような人になれるなら、こんなすばらしいことはありません。
一番印象に残ったのは、著者がイスラム神秘主義のルーミーを引き合いに出しながら、私とあなた、彼、彼らというのは「神秘主義の庭では区別することができない」と述べていることです。私たちが皆深いところでつながっているという認識は重要で、その不思議なつながりこそが、あのマザー・テレサを助けてくれた人びとのそれであり、また、私たちの自発的なネットワークを支える当のものでもあるのでしょう。
本書には自分の日々の心がけを大いに反省させられますが、ふだん口の悪い私でも悔い改めればいいことが起こるでしょうか。それも、ただ批判がましいことを口にするのを我慢するだけではダメですね。かえってストレスをため込んでしまいます。むしろ、根本から相手の幸せを願うような人格にこちらが成長しなければならないのでしょう。
イメージで言うなら、宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」の中の「イツモ静カニ笑ツテヰル」という感じでしょうか。でも、あれだってあくまでも「そういう人に私はなりたい」のであって、なってよかったねという話ではありません。なっていたらもはや詩人でなかったのかもしれませんが。
いずれにせよこれは日暮れて道遠しです。でもそうやって奇跡が起こってくれるなら、やってみる価値はあります。それに、何はともあれお互いにハッピーなほうがいいですから。まあ、私に関していえば、修行は明らかに不足していますが、少しだけでも近づくように努めます。
ところで、この本がアメリカでベストセラーになるというのは、ちょっと不思議な気がします。同じくベストセラーであるD・カーネギーの名著『人を動かす』と似たところがあります。しかし、要するにベストセラーといってもこれを買った人が本当に読んでいるかは疑わしいですし、仮に読んだとしても、その通り実践できる人はほとんどいないということなのでしょう。でなければあんなにしょっちゅう他国に戦争を仕掛けないでしょう。
(渡部昇一訳三笠書房2005年1300円+税)
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