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2009年9月14日 (月)

谷沢永一『実践人間学』

 著者お得意の人間学ですが、実践編があったとは知りませんでした。確かに新潮選書の『人間学』より具体的で読みやすい感じです。
 本書では人間誰しもが持っているえげつない情念をいいものに昇華する心得から話が始まります。たとえば、 松下幸之助が「嫉妬はキツネ色にほどよく焼くのがコツなのである」(38頁)と言っていることはほかでも読みましたが、その前のせりふも含めてきっちり紹介されているので、本書で初めて身にしみてわかった気がしました。
 本書ではほかにもいろいろな人のエピソードをうまく料理してくれていて勉強になります。
 山片蟠桃の『夢の代』は54歳の時に一念発起して、毎晩夢の代わりに20年近く書き続けてできたものだそうで、その継続する情熱は是非とも見習いたいものです。
 また、三宅雪嶺は「人は善くもいわれ、悪くもいわれるのがよい」という印象深い言葉を残しています。そうするうちに人間が練れて物事を深く考えるようになるからだ、とのことで、他人については「適度に多めに褒め、少な目に貶すのが他人から愛されるコツである」とは著者の読みです(100頁)。なるほど、心したいと思います。
 著者の考察もロシュフーコーなどに負けていません。人から嘘をつかれるとしたら、それは「一種の洗礼と思うべきだ。二度と騙されないように自分の弱点を克服することが、嘘をついた者に対する返礼である」(161頁)というのも味わい深い台詞です。若いときはただうそつきを憎んでいただけでしたし、今でも嘘つきは嫌いですが、こういう風に自己の成長のバネとすることができればたいしたものです。
 ほかに印象に残った台詞には、
「我慢しなければならないときは、とにかく根太が腐るほど耐えることだ」(174頁)という一方で、「自らの人格を不当に傷つけるような重大な非難には、断固として反撃する必要がある」(175頁)とも言っているところです。別に矛盾ではありません。これこそ喧嘩の達人の言葉です。実際、大学や官庁などによくいるあの人をナメて図に乗るバカたちには一撃をお見舞いしてやらないとわかりませんから。もちろん、一撃といってもそういう気合いの問題ですけどね、念のため。

(講談社2000年1,300円税別)

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