小坂貴志『異文化コミュニケーションのA to Z』
「異文化コミュニケーション」のテキストとしてはうまくできています。とりわけ、ふんだんに収録されたコミュニケーションにまつわる小事件(インシデント)が有益です。学生に読ませて意見を言ってもらうのに便利です。
また、理論面もわかりやすい例を出してコンパクトに解説されていて、無味乾燥な読み物とならないような工夫がされています。このあたりのサービス精神の見事さには著者のアメリカ留学での経験なども生かされているのでしょう。滞米生活13年ということですし。
ただ、この分野というのはアメリカの研究者がやはり一番多いと思いますが、とにかく目立とうとして、どうでもいいような些細なことを個人の名前を冠しただれそれ理論という風に打ち出すのが好きみたいです。読みながらついつい笑ってしまいます。
著者は素直でいい人らしく、そうしたことに対して批判めいたことは一切書いていませんが、門外漢の普通の読者なら、著者のことはさておき、この分野に支配的な俗物性にさぞかし驚かされるのではないでしょうか。まあ、大学や学会では普通のことですけど。みんな裸の王様なのです。その王様もしばしば暴君だったりして臣下は苦労していますが、いずれは自分も王様になるのだから我慢できない苦労ではないのでしょう。
著者はその俗物凡人たちの掃き溜めの中でまじめに学究生活を送られているようで、頭が下がります。私には耐えられない世界です。耐えられるようなら違った人生が開けていたかもしれませんが、若いころはつい批判してしまって煙たがられたり、恨まれたりしてきました。
最近はさすがに多少は学習したのか、正面からぶつかるなんて無謀なことをするよりは、危うきに近寄らずということにしていますが、決して君子になったわけではありません。むしろ加齢に由来する行動パターンでしょう。
そんなことより、ともかく著者にはいい教科書を出していただいて助かりました。地獄に仏とはこのことかも。これで少しは楽しい授業ができそうな気がします。
(研究社2007年2,200円+税)
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