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2009年10月19日 (月)

『叢書 現代のメディアとジャーナリズム第1巻 グローバル社会とメディア』

 仕事上の必要から読みました。そんなことでもなかったら決して読まなかった本です。学者やジャーナリズム関係者たちの共著ですが、普通に楽しんで読めるような本ではありませんので、この手の問題に関心のある人以外にはおすすめできません。
 様々な分担執筆者による編集本ですが、おとなしい著者ばかりで、全体に権威と社会通念に寄りかかっているぬるーい本です。本書に限らずジャーナリズムやアカデミズムをめぐる一般的な社会通念というのは、
1 ジャーナリストはあらゆる権威を恐れず悪に立ち向かっていく正義漢である
2 学者は個々の事実認識が正確で、決していい加減なことを言わず、コメントを求めると、常に何か人びとのためになることを言ってくれる
 というもので、少しでもこの世界を知る人にとっては笑止千万なのですが、本書を読むとこういう通念が大間違いだということがわかってもらえるかもしれません。少しは面白い記事もないではないのですが、それぞれ名のある大学の先生や実務経験者たちが、個々の事件の確認をおろそかにしてつまらないことを述べてみたり、ろくでもない屑のようなジャーナリストを認めてみたりしています。
 ジャーナリズムをネタに食っている人たちなので、ぬるくなるのはしょうがないかもしれませんが、ガセネタばかり書いていて有名なクリストフ夫妻なんて、屑以下だと言ってやるべきでしょう。服部君射殺事件についても「『フリーズ』という言葉が理解できなかったのか、戸口まで近づきすぎて射殺されてしまう」(15頁)なんて書かれていて、もうちょっと調べればわざわざ呼びつけられて打たれたことがわかると思うのですが、遺族が気の毒です。
 なお、上野千鶴子の構築主義に関する発言が引いてあって、やくざの言いがかりみたいな虚仮威しの議論がポストモダン的に述べられているのに妙に感心させられました。さすがに本書の著者もそれには与していませんでした。この点はまともでした。
 全体に本書には異文化との共存共生というようないわば柱になるべき思想が明確に述べられていないことと、ジャーナリズムの現場の生々しさが抜け落ちていることが問題だと思います。そもそもジャーナリズムは正義を売り物にするという威張れないことをやっている業界です。そこをしっかりと見据えていないと、ついにきれいごとに終始することになるでしょう。お金と正義のバランスが難しい業界です。
 もっともこの本を読んだ目的は別のところにあるので、その意味では収穫というか、考えるヒントは得られました。まずはめでたしですが、このシリーズ全部で8巻をすべて読まなければならないのは、あまりうれしい仕事ではありません。

(武市英雄・原寿雄責任編集2003年3,500円+税)

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