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2009年10月27日 (火)

『叢書 現代のメディアとジャーナリズム第8巻 メディア研究とジャーナリズム 21世紀の課題』

 お仕事用の本です。この巻は今年出たばかりで話題もずれていないので読んでいて退屈はしませんでした。全体に第1巻と比べて論文の執筆陣と翻訳者の日本語がしっかりしている印象です。
 内容としては、まずイギリスのメディア研究の歴史では、大学の研究者がその研究と言論を通じて実際の報道にも大きな影響を与えていることがわかり、感心させられました。
 他方、アメリカではメディア・リテラシーやオーディエンス研究など一見派手な流れがありそうですが、教育機関でメディア教育を修めた者に学位を与えているところが意外と少ないことに驚かされます。社会学や心理学の中で勝手にやればという感じなのかもしれませんが、そうしたアナーキーなところがまたアメリカ的なのかもしれません。
 古典的なコミュニケーション理論も、ポストモダンの思想家たちの言説も取り上げられていて目配りがいいと思いますが、それでも今日の情報化社会の、たとえばネットワーク理論などについては十分消化し切れていないように感じました。『ウィキノミクス』に登場するような、たとえばオープンソースの可能性などは取り上げてしかるべき話題だと思いますが、まだ出てきていません。
 後半のカルチュラル・スタディーズや言語コミュニケーション研究の歴史は個人的には割とおなじみの分野ですが、学説史的記述はアメリカのニューレフトとの関わりに光が当てられていて、面白かったです。
 それにしても、テレビも新聞もこれからどんどん飽きられて衰退していくのではないかという予感がします。少なくとも報道に関してはあまりにもバイアスがかかりすぎています。本当にいい情報はこれからはますます会員制の雑誌やメールマガジン、そして一部のウェブサイトを通じてしか得られなくなってくるのではないでしょうか。
 学問的に取り上げる前に対象が弱体化してしまうというようなことも考えておいた方がいいのかもしれません。

津金澤聡廣・武市英雄・渡部武達責任編集(ミネルヴァ書房2009年4,500円+税)

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