オストヴァルト『エネルギー』
20世紀初頭のヨーロッパでエルンスト・マッハとともによく読まれていたのがこのオストヴァルトです。マッハが要素一元論であるのに対して、オストヴァルトはとりわけ晩年にエネルギー一元論とでもいうべき立場から様々な著作を発表していました。マッハは物理学で音速やマッハ帯にその名をとどめていますが、オストヴァルトもノーベル化学賞を1909年に受賞している当代随一の科学者でした。
本書は1938年に出た岩波文庫の復刻版ですが、我が国では本当に昔からいろんな翻訳が出されていて感心します。オストヴァルトもほかにもう一冊くらい文庫があったと記憶しています。まあ、当時流行っていたということはあるのでしょうけれど、知的関心が高い読者層が存在しなければ翻訳が出されることもありえません。それでまた、その当時すでに哲学者の田辺元などが根本的な批判もしていたことが解題からは窺われます。
オストヴァルトの一元論は物質も精神もすべてエネルギーに解消してしまうので、当時としても相当極端な立場だっただろうと思いますが、物質と精神を甚だしく区別しないという点ではマッハの立場に通じるところがあります。マッハもオストヴァルトも当時は実証主義でもあったので、当時の実証主義者は科学主義とは異なる神秘性に裏付けられていた感じがします。少なくとも科学的な手続きとしては実証的ですが、理屈はそんなに強くなくて、曖昧な神秘性を帯びています。彼らの科学的成果もまたそうした神秘的直感と無関係ではなかったのでしょうし、読者もそのあたりに惹かれるところがあったのだと思います。
オストヴァルトが物質もエネルギーに解消してしまう根拠の一つが、当時登場したばかりのエントロピー増大理論にあることがわかったのは面白かったです。最近はあまりエントロピーで浮かれるインテリはいなくなりましたが、1980年代頃には結構流行っていましたし、エントロピーとネゲントロピーを取り違えて論じてK大の工学部の学生から指摘を受けていた山口昌男のような人も、今となっては懐かしい思い出の人になってしまいました。
もっとも、さすがにオストヴァルトは科学者なのでエントロピーを放出エネルギーとして普通に理解しています。流行り物はすたり物といいますが、同じすたり物でもスケールはかなり違うようです。
当時同じように流行っていたと言われているアヴェナリウスは翻訳はあるのでしょうか。今度探してみます。
(山県春次訳岩波文庫1938年1991年第10刷460円)
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