ダーウィン『種の起源(上)』八杉龍一訳
あまりにも有名な本ですが、ちゃんと読んだのはこれが初めてです。自然観察から自身の思想をじっくりと育て上げたという点では哲学者みたいな趣がある人です。アリの観察の細かい描写などを読むと、この人は本当に観察が好きな人だったのだなということがわかります。
ダーウィンの理論は個々の生物がそれぞれ常に環境に対応しながら微妙な変化を続けていて、それが自然の中で淘汰されることで、新たな種となるというもので、種はそれぞれ個別に神によって作られたという当時の通念をひっくり返す大胆な発想でした。
それ自体いろんな意味で画期的だったのですが、理論としては弱点もあります。本人自らが認めているように、微細な変化を重ねながら新たな種ができたとすると、自然選択によって滅びてしまった中間種というのがほとんど発見されていないのはどうしてなのかという批判です。
そうした変種は数が少なくて発掘が難しいことをその理由にしていますが、これは実際今ではとんでもない変種が見つかって、これではとうてい生き延びられないだろうというようなばかでかい角を持つトナカイとか、どう見ても中間形態とはいえない化石が発見されていたりします。
そんな話を聞くと、生物はどうやら徐々にどころか、あるときいきなり変な方向に変わって絶滅してしまうこともあるのかもと思えてきます。
それはともかく、ダーウィンが微細な変化と新種の誕生を関係づけたのは、理論としては面白いところがありますが、実際には自然選択というのはあくまで結果であって、どうがんばっても原因にはなり得ないだろうと思います。今、理論としての面白さと言ったのは、この理論が微積分のような構造をしているからでしょう。
また、自然選択というのは神の代わりに自然によって選ばれる決定論のようにも思えてきます。強者が弱者を滅ぼすというイメージは当時の植民地の状況でもあります。いずれにしても、自然とうものが科学の鎧を身に纏った神になったのが19世紀から20世紀にかけての世相ですから、D・H・ロレンスのような文学者はさぞかし苦々しく思っていたことでしょう。
下巻を読んだらまた書きます。でもあまり書くことはないかもしれません。
(岩波文庫1990年改版720円)
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