日垣隆『北朝鮮はなぜ嫌われるのか』
イランやミャンマーからは好かれているような気もしますが、かつては朝日
新聞や社会党もこの世の楽園として賞賛を惜しまなかった時代がありました。
1990年の日朝国交正常化交渉のころ、金丸信、土井たか子、田辺誠あたりが恥
ずかしげもなく金日成万歳と電車の中吊り広告を出していたのを覚えています。
あの広告はもらっておけばよかったなあ。
著者は1987年に228人の旅行団に入って北朝鮮を訪れています。チュチェ思想
研究会のメンバーがそのうち100人ほどいたそうです。今そういう人はどうして
いるのでしょう。ちなみに旅行団の代表は総評委員長で日教組委員長もつとめ
た槙枝元文だったそうです。槙枝氏は「良識ある日本人はすべて、偉大なる金
日成同志と敬愛なる金日成指導者に、心からの尊敬を胸にいだいております」
(27頁)なんてスピーチをしていたそうです。
また、これより前から小田実や大江健三郎が北朝鮮を礼賛していた当時の記
述もしっかり引用されています。
本書は当時の状況と現在の情報とを行ったり来たりしながら、著者らしく冷
静な分析をしています。そういえば著者には『松代大本営の真実』という名著
があるのでした。それを書くに至った経緯にも触れられていますが、戦後北朝
鮮に帰国せずに日本に残った在日二世の山根昌子さんという女性のことがきっ
かけだったのですね。この最初の北朝鮮旅行も一緒に出かけています。
著者の立場は北朝鮮を感情だけで語ってはいけないというもので、当然今で
はならず者国家ですが、拉致問題解決のためにわが国が経済制裁をすることに
は反対しています。それは底辺の民衆がダメージを受けるだけだからです。イ
ラクなんかの経済制裁の状況も見てきた著者の主張には説得力があります。
また、北の状況はベルリンの壁崩壊以前の社会主義諸国に通じるものがあり、
きついと言ってもそれなりの抜け道があったりするところはルーマニアあた
りとも似ている気がしました。ルーマニアの方が厳しかったかもしれません。
当時ハンガリーに留学していた北朝鮮の留学生は日本人をあからさまに敵意
のこもった目つきで見つめていましたが、1989年にハンガリーが韓国と国交を
結んだとたん、大使館以下全員が引き上げてしまいました。私は直接彼らから
バカと言われたりすることはなかったですが、友人の中には不愉快な思いをし
た人もいました。当時北朝鮮から外国に出してもらえる人は相当のエリートで
したから、思想教育もさぞかし徹底していたのでしょう。あの緊張を一生維持
しているわけはないだろうと思いますが、反日感情は根本的には変わっていな
いような気がします。変わる理由がありませんし。
それにしてもいつまでこの体制が続くのでしょう。
(大和書房2009年800円+税)
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