« 内田樹『昭和のエートス』 | トップページ | 日垣隆『秘密とウソと報道』 »

2009年10月 8日 (木)

野口悠紀雄『アメリカ型成功者の物語 ゴールドラッシュとシリコンバレー』

 カリフォルニアのゴールドラッシュでとんでもなく儲けた人たちは、金そのものを掘って儲けたのではくて、金を求めてやってくる人びとや物に関わる流通、輸送、金融等に関して新たな事業を始めた人だったそうです。
 この話自体はもちろん経営者にとっては教訓に満ちていますが、この一連の状況がIT革命と酷似していると指摘されると、さらに深みを増します。この二つの状況は地理的にも関連していて、ゴールドラッシュで富を得たお金持ちがつくったのがスタンフォード大学で、その大学からのちに巨大企業に成長するグーグルやヤフーが生まれてきたわけです。
 いわゆるシリコンバレーはまさにそのゴールドラッシュの地にあるわけですから、対比するには実に面白い現象です。この目の付け所がすでに本書の成功を保証しています。語り口もフラッシュバックしたりフラッシュフォワードしたりと、時系列にとらわれず読者へのサービス精神に基づいて、実にわかりやすく書かれています。さすがにこの点、売れる本を書ける人は違います。
 本書の中で、大陸横断鉄道が巨万の富をもたらした仕組みが解説されていますが、これには感心させられました。何せ鉄道を造るまでの間はふつうならお金が儲かるはずがなく、完成して利用者が運賃を支払うまで待ってくれなければと考えそうですが、そうじゃなかったんですね。
 つまり、最初は建設会社の株を一般株主に売るための窮余の一策として証券を取り扱うための会社CMAを興し、鉄道会社の株式を額面で引き受けて、その株を自社株として市場に額面以下で売り出していたのですが、ここで、建設会社が建設費を実際よりも高く水増しして証券会社に支払うことで、赤字を補うという仕組みです。
 この建設費の水増しがいくらでも通用することを悟ってからは、その会社はいくらでも利益を上げるようになったのです。さらに、建設が進んで建設会社の株価が額面を超えるようになれば、さらにCMAの株主は元手なしで膨大な額の利益を得られるし、建設会社の大株主になることもでき、経営に口出しもできるようになるわけです。
 何と頭がいいのだろうか、あるいは汚いんだろうかと考えるのは読み手の勝手ですが、いずれにしても驚かされずにはいられません。この手法は土建国家複合体を作り上げた田中角栄の手法よりももっと巧みでばれにくいに金融・証券版錬金術とでも言ったらいいのでしょうか。もちろん、グーグルやヤフーそしてシスコシステムズのようなベンチャー企業の儲け方はまた違いますが、やはり「直接金を掘らない」という点では明らかに共通しています。
 本書ではシリコンバレーの母体となったといえるスタンフォード大学の経営方針も、他と同じことはやらないという点で、ゴールドラッシュの教訓を生かしているのでしょう。アメリカでも後発の大学がランクを上げることなど一般にほとんど無理と思われているところに、スタンフォード大学はほとんど唯一の例外と言っていいほどの成功例を示しているとのことです。
 それならば地方の不便なところにある弱小私立大学であっても工夫次第で何とかなるのかもしれないという気にさせられます。でも、文科省の言いなりで他の大学と同じようなことばかりやろうとしていては未来はないことも、本書ははっきりと教えてくれています。
 日本経済のビジネスモデルの転換も説かれていますが、大学なんてところはそのビジネス界よりも格段に遅れているうえに、きわめて日本的な共同体的な業界なので、大学経営については、うーん、やっぱり出口はないかもしれません。

(新潮文庫平成21年629円+税)

|

« 内田樹『昭和のエートス』 | トップページ | 日垣隆『秘密とウソと報道』 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。