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2009年10月 9日 (金)

日垣隆『秘密とウソと報道』

 ジャーナリストがしばしばフェアとは言えないやり方で取材したり、当事者の秘密をバラしたり、ウソを書いたりするのはよくあることで、かつて栗本愼一郎先生は、インタビュー記事は受けないようにと浅田彰に助言しておいたと仰っていました。言わなかったこともそれらしく捏造されてしまうからですが、平気でそれくらいのことをする輩がたくさんいる業界であることは確かです。
 結局のところそれは取材者の人間性の問題でしょうが、本書ではえげつない実例が実名で出てくるので、へぇーっと思わされます。たとえば、
・山崎朋子『サンダカン八番娼館』では、著者は「からゆきさん」の写真とパスポートを盗んだ。
・佐木隆三『復讐するはわれにあり』では、著者は警察の内部資料を勝手にコピーして、それをもとに書き上げた。
 この二件については誰もよくない行ないだとして問題にしてはいないというのも不思議なことです。
・鎌田慧『自動車絶望工場』では、著者は身分経歴を偽り期間工として働いて取材しているが、フェアとは言えない。
・草薙厚子『ボクはパパを殺すことに決めた』は、鑑定調書を無断でコピーして、8割から9割方そのままの内容で出しています。法廷では誰からも聞かれていないのに取材源として鑑定医師の名を出して、医師には第一審で実刑判決が出されています。
 なお、日垣隆は「彼女の不用意かつ売名的かつ軽率な行動により、鑑定書や調書という重要な取材ルートがさらに閉ざされてしまった。恐るべきバカ女としか言いようがない」(86頁)と断じています。
・西山事件では毎日新聞社の特ダネ記者が逆ハニートラップにより外務省の女性職員から機密を聞き出した事件ですが、その取材方法の卑劣さはもちろんですが、その西山記者を擁護する知識人の代表格が作家の澤地久枝とは知りませんでした。西山記者は呼ばれて講演したりしていますが、そこでは彼が情を通じた蓮見さんの話は、質問することも許されないような雰囲気なのだそうです(168頁)。反権力のポーズをとっているといろんな悪事を見逃してくれるという時代はそろそろ終わりにしてほしいものです。
 しかし、こんなにひどい現状にあっても、著者はまだまだ有料ジャーナリズムは死んでいないと言います。実際、部数が少ないなりに固定した読者層に向けたサービスを充実させていけば、生き残る可能性はある気がします。
 何より著者の日垣氏自身が会員制メールマガジンをはじめ、有料セミナーなど次々といろんな試みをされています。その中にもヒントはたくさん隠されているように思います。

(幻冬舎新書2009年740円+税)

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