橋本治『大不況には本を読む』
本書は最終章を除いて経済の話題です。1985年のプラザ合意以来の日本の経済状況がわかりやすく述べられています。独特なのはその書き方で、以下のような具合です。
「もしも、1985年の段階で、日本が『いるんだかいらないんだかよく分からないものを“買え”などという、罰ゲームみたいなことを言われるのだったら、そんなのはいやだから、もう儲けるのはやめる。我々のいる世界経済は不健全だ』と言っていたら、世界経済は『拡大』なんかには向かわずに、『縮小』の方向へ向かっていたでしょう。そして、『世界同時不況』というような、愚かしい経済危機に直面することなどなかったでしょう。」(62頁)
で、実際、「いるんだかいらないんだかよく分からないもの」を売りつけるのが資本主義経済の基本で、アヘン戦争なんかはその典型だと著者は考えています。ヘンなものを売りつけられ、また作らされて持って行かれるというのは植民地と宗主国の関係ですが、世界経済は確かにそういう形で最初は発展しました。
リカードの理論なんかはそうした中でいかにも精密かつ正確に作られていますが、国際分業論なんてのは、ある意味で正確なだけに怪しいという側面もあったのかもしれません。幸せな理論だと思いますが、当時ヘンなものを売りつけられて貿易だと言われてもピンと来ないという人びとの感情にも一理あったように思います。
さて、そんな中でそのうち自分で安くて性能のいい工業製品を日本だけが作っては先進諸国に売るようになりました。これは世界史的には考えられなかった見事な逆襲でしたが、それを達成した日本が仮に真っ先にゼロ成長経済体制に転換していたとしたら、確かに世界に貢献していたことでしょう。
実際には日本人は相変わらずこの事態を深く考えることもせず、「物づくり日本」を推し進めて、気がつけば経済大国になってしまっていたわけですが、このいきさつをもう一度振り返って、踏み出さなかった一歩のところに立ち返って考えてみましょうというのが、本書のスタンスです。
そこがすなわち「本を読む」という地点で、いきなりという感はありますが、「でもそうだよね」という同意が得られるような気もします。自己を知り他者を知り、自分の行く末を考えるには、結局のところ本を読んで考えるという当たり前のことが必要であり、もっとも効果的だからです。
全体に、偶然でしょうけれど、『大転換』のカール・ポランニーの議論と近いところがあります。いずれにしても、世界経済が落ち着きを取り戻して新たな相貌を現わすことがあるとしたら、本書で描かれているような感じになるのかもしれません。
(中公新書ラクレ2009年740円税別)
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- ドイツ語で読む珠玉の短編(2026.06.23)
- 山本七平『小林秀雄の流儀』(2019.07.28)
- 田中圭一『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』(2017.02.20)
- 天外伺朗『宇宙の根っこにつながる生き方 そのしくみを知れば人生が変わる』(2017.02.19)
- 柴田昌治『「できる人」が会社を滅ぼす』(2016.12.30)
この記事へのコメントは終了しました。


コメント