橋本治『人はなぜ「美しい」がわかるのか』
これはすごい本です。「美しい」ということがわかる橋本少年は、昔から「美しい」がわからない人たちを敵に回して生きてきたようです。つまらない大人はみんな「美しい」なんて、何の役にも立たないと思って、軽んじているのです。軽んじている以前に感じていないようなのです。そして、それが不思議でここまで考えてきた成果というか哲学が本書です。
著者は「美しい」には重大な役割があると言います。それは、「自分と直接関わりのない他者」を発見することです。この表現には感心させられました。欲得ずくの大人の正反対にあるのがこれです。地位や金や人種や文化で差別する人の対極にあるのがこの思想です。ここを見ることで、何の役にも立たない「美しい」は重要な意義を獲得するのだと思います。
また、その「美しい」を実感させるのが、美しさに惹かれる幼いころの著者を遠巻きに見守ってくれていた祖母の「愛情」だというところも納得が行きます。決して特別に濃厚な愛情ではなくて「介入しない」くらいの愛情というところがミソです。濃すぎると手取り足取りになってかえってよくないのかもしれません。
じっくり考えながら書いている著者独特のスタイルは、結構ついて行くのが大変のところもありますが、そこがまた魅力的です。日本の古典の読解についても至る所に炯眼が光っています。枕草子や徒然草についての著者一流の見方には唸らされます。
しかし、何よりも本書では「美しい」を知る人は世界で最も優れた知恵と果てしない勇気を持っているのだとうことを、著者自身が身をもって実証しているように思います。大変勇気づけられる本でもあります。
(ちくま新書2002年760円+税)
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