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2009年12月26日 (土)

福岡伸一『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』

 「生命とは動的な平衡状態にあるシステムである」(232頁)というのが著者の生命観です。生命は分子レベルでは次々に入れ替わりながらその平衡状態を個体として維持しています。
 そして、その個体がくたびれたら、生命は次世代の個体へと生命のバトンを受け渡しながら、なんと38億年も続いてきています。「だから個体というのは本質的には利他的なあり方なのである」(246頁)とも著者は述べています。印象に残る表現です。
 デカルト以来の生命機械論やドーキンスの利己的遺伝子といった思潮とは全く異なる立場ですが、私にとってはこの著者の立場の方がしっくり来ます。万物流転というかあるいは色即是空というか、一般的な日本人にはなじみやすい世界観なのかもしれません。
 そのせいか、本書を読むと、自分の体の中にもミクロの時間がめまぐるしく、しかし同時にゆっくりと流れているような(矛盾していますが)不思議な気がしてきます。分子生物学というのは面白い世界を見ているのだなあとあらためて感じさせられます。ウイルスの話は『生物と無生物のあいだ』でも読んだのですが、ここでもまたあらためてその独特の性質に驚かされます。
 わが国では以前からM.ワールドロップやJ.グリックのような科学ライターがいないなあと思っていましたが(日垣隆は例外です)、著者は第一線の科学者でありながら、読者を惹き付ける語り口と構成力をもっているおそるべき人です。
 本書の最後に出てくるライアル・ワトソンの二冊の本『エレファントム』と『ホール・ホッグ』も著者による訳が出ているそうなので、今度読んでみようと思います。鯨と象が低周波で語り合っているなんて話は、これはもう読まずにいられません。
 ワトソンによると自然界は歌で満ちているそうです。そして、本書の著者ももちろんそこに共感しています。面白そうです。

(木楽社2009年1524年+税)

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