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2009年12月23日 (水)

楊逸『すき・やき』

 21歳の中国人女子留学生が主人公の小説なので、ふだん留学生のお世話をしている身としては、これは読んでおかなくちゃと思って新刊を入手した次第です。
 彼ら彼女らの生態は比較文化論としても面白いところがありますが、こうした小説ではその心の中が少し窺えるのも貴重です。うちの留学生たちもこんな感じでいろいろな問題を抱えながらいつもアルバイトと勉学に精を出しているのかと思うと、ちょっと切ない感じもしてきます。
 小説の構成はかなり考えられていて、日本が学校からの同級生の韓国人男子学生から交際を迫られながらも、アルバイト先の弥生人顔のすまーとな日本人店長に惹かれていくというのは、日中韓の国際関係を暗示しているような感じです。
 そのあたりは、主人公が美人だということも含めて、ちょっとあざとい感じもしますが、アルバイト先や大学などの人間模様は面白いと思います。細かい仕掛けがこらしてあるのは、いわゆる「自然な」筆致を好む日本人作家とは違って、作家はこうして作品を作り込むのがいいという感覚があるのかもしれないなと感じました。
 知人に小説を書いている中国人女性がいて、日本語添削を頼まれたことがありますが、その人もなかなかいい感じの作品を書いています。習い覚えた外国語でものを書くというのは大変なことですが、それで論文ではなく小説を書こうというのですから、書くだけでもすごいなあと感心します。
 時々間違いではないけれどもこんな風には言わないという表現のぎりぎりの面白さがあるのは学習者の文章の特徴ですが、本書にも時々出てきます。編集者としてはどの程度手を入れたらいいのか迷うところでしょう。
 私の外国人の友人で見事な日本語の使い手がいますが、あるとき「何かろくなものはありますか」と聞かれたことがあります。ろくでもないものの反対はろくなものという発想でしょうけれど、一瞬何かなと思って、すぐに意味がわかりましたが、面白いなあと思いました。
 本書では日本語学校での外国人同士の共通語である怪しい日本語会話を堪能できます。韓国人男子学生と主人公との会話も意志が通じたり通じなかったりで、独特の面白さがあります。
 さて、文章は別にして、先の小説を書いているという中国人の知人もこの作家の発想に似た、比較文化論的面白さがあるように思いましたが、一度こういう作家が出てきてしまうと、二匹目のドジョウというわけにも行かないのが辛いところです。別の路線を開拓しなくては。
 それはともかくとして、こういう作家が出てくると、留学生はもとより日本在住の外国人にとっても、大きな励みになることでしょう。

(新潮社2009年1300円税別)

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