森田たま『もめん随筆』
素晴らしい名文でつづられた見事なエッセーです。著者は何だかすごく肝の据わった、しかし、恐るべき情熱も内に秘めた女性のように思います。ちょっと怖いところがあって、それがまたそこはかとない魅力になっています。
文中の登場人物も内田百閒、漱石、芥川龍之介、田村俊子、宇野千代など賑やかです。また、大阪のおばちゃんというのは昔から言動のパターンが変わっていないということもわかりました。
本書は復刻版なので、旧仮名旧漢字で書かれていますが、大阪弁のセリフが旧仮名遣いで書かれていると、何だかとても新鮮な感じがしました。中公文庫から出ている版は未見ですが、おそらく新仮名遣いだと想像され、それだと魅力が割り引かれそうです。しかし、解説が付いていることでしょうから、買っておこうかとも思っています。
さて、本書のどんなところが怖いかというと、次のようなところです。
「さてその廿歳の頃、男は専横極まりなきものと思ひ暮らしながら、ふとしたもののはずみから私はふらふらとその憎むべき相手と結婚してしまつた。爾来二十年いまではこの世の中に男程親切な優しい人種はないと思つてゐる。從って男にどんな不平があるかとたづねられても、咄嗟には何事も思ひ浮かんでは來ないのである。女同志のつきあひがちやうど場ちがひのするめをたべるやうに、噛めば噛む程筋が残つてくつのに引かへて、男の友人は西洋のお酒のやうに、月日がたてばたつ程まつたりとした味の出てくるものである事を二十年の歳月が私に教へてくれた」(199頁)
うーん。これは正しいのかもしれない。この後に亭主にふるわれた暴力の数々の描写が続くのですが、逆にだからこそこの考察は説得力を持ってきます。私の友人知己の女性陣も、それからいうまでもなく配偶者も、こんな風に男性の事を考えてくれているのかと思うと、観音菩薩か阿弥陀如来かはわかりませんが、本当のところ男というものは女性によって完璧に手玉にとられているのでしょう。
でも、妻はともかくとして、こういう女性の友人があるなら、男性としても心豊かな人生を送れそうな気がします。
(新潮文庫昭和26年、平成6年復刊520円)
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