能町みね子『オカマなのにOLやってます。完全版』
生まれてきて気がついてみたら、自分の性が心と一致していないというのはえらいことです。著者は自分のことを自称で呼べないので何だか妙だと思っていたら、そういうことだったかと後で気がついたなんて、のんびりしています。しかし、同時に自分のことを「俺」とか「僕」と呼べるかどうかということからこの問題が始まっているなんて、ふつうはなかなか気がつかないことですので、貴重な記述だと思います。
それにしても途中から別の性に移行するのには、本当にいろんな苦労があることがわかります。そのあたり機微を実に上手く書いてくれているのが本書の特徴で、頭のいい人だなあと思います。
著者は後書きで、今ではOLもやめて、手術も施して、オカマでもOLでもなくなり、「女性」としてエッセーを書いたり、イラストを描いたりする生活をしているそうですから、いつ他のOLに男だと悟られるか戦々恐々としている必要がなくなったのは幸いでしょう。
しかし、いろいろとすったもんだし苦労しながら生きてきた著者が「男と女の境界線なんていいかげんなもんですよー。まったく」(281頁)と言っているのは説得力があります。そういうものにこだわりすぎると大切なものを見落としてしまうということでもあります。
何はともあれ本書はいろいろと読者の世界を広げてくれる本です。男女というのもまた異文化だということがよくわかりますので、「異文化コミュニケーション」や「比較文化論」の参考図書として学生たちにも薦めておこうと思います。
(文春文庫2009年657円+税)
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