遠山啓『文化としての数学』
数学は高校一年の秋の実力試験でどういうわけかフロックで90点以上とったのをピークにどんどんわからなくなりました。30歳を過ぎてから専門学校で公務員試験に出題される数学や数的推理、判断推理の問題を教えざるをえなくなったとき、あらためて勉強し直してみて、あ、そういうことだったのね、と腑に落ちるところがありました。できるようになったとは言いませんが、少なくとも数学に対するアレルギーのようなものはなくなりました。
英語や法律も学校を出てから勉強し直して多少わかるようになりました。学校で勉強するのが嫌いなくせに学校で教えているとは、われながら不届き者だと思いますが、勉強のコツは多少心得ています。
数学については、要するに点数だけ取るのだったら解法を暗記するのが一番効率がいい勉強法です。最初はよくわからなくてもとにかく解答を紙に書き写すのです。見ているだけではなくて手を使うのがポイントです。ここで面倒くさがらずに取り組むと、不思議なことにわかるようになります。このあたりのコツは精神科医で受験評論家の和田某の本に開陳されています。
それでは受験数学ではなくて学問としての数学はどんなものなのかというと、これはまた別の面白さがあります。これも心得て数学に励んでいたら別の人生が開けていたかもしれないという錯覚に陥るくらいです。
本書はそういう数学の概要を説いてくれる名著です。数学の歴史も鳥瞰できて便利です。文章も読みやすく、本当なら結構わかりにくいはずの内容の箇所でもすんなりと理解できます。
若い時分にこういう先生の授業を聴いてみたかったものですが、解説代わりに戦後まもなく著者の講義を聴いた吉本隆明のエッセーが載っていて、これが良い味わいを出しています。実際、文章から想像されるとおりの先生だったようです。さらに吉本隆明が「あらゆる職から断たれて途方にくれていたとき、アルバイトの就職口を探してくれた」(244頁)そうです。
ところで、本書に載っていたアメリカの大学生の学力調査結果は驚くべきもので、次のような問題がことごとく正答率30~50%台です。
1)175ドルの6%はいくらか?
2)7-6+2-4=
3)0.4, 2.5, 0.875を大小の順に並べよ
ハイスクールで数学をやらなかった学生たちに限っての数字ですが、それにしても図抜けています。もっとも、わが国もゆとり教育以来急速にこのレベルに近づいていますが。
ところが、別の本で読んだことですが、韓国、スペイン、アメリカとあと一カ国どこかヨーロッパの国の4カ国の生徒たちを対象に基礎数学能力のテストをしたら、案の定韓国が一位で、アメリカが最下位だったそうです。しかし、自分は数学ができると思うかという自己評価度を測ったら、惨憺たる得点にもかかわらず、アメリカがトップで韓国は最下位だったそうです。
現在ここに日本が入ると得点も自己評価もひょっとすると最下位になるかもしれませんが、いずれにしても、世界で一番幸せなのはアメリカ人のようです。
(光文社文庫2006年476円+税)
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