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2010年2月 1日 (月)

マッテオ・モッテルリーニ『世界は感情で動く 行動経済学からみる脳のトラップ』

 前作『経済は感情で動く』の続編ですが、こちらの方が話題が多岐にわたり、実験例や事例も新鮮なものが多かったように感じました。授業で使えそうだなと思いながら、実は早速この土日のスクーリング授業でも、いくつかこの本の中から話題を拾って紹介してきました。
 本書では人びとの陥りがちな思考の癖がこれでもかというくらいとりあげられ、検討されています。集団に同調するあまり客観的な判断ができなくなるのも、別に日本人だけの特徴ではないことがわかります。
 高価なワインだと美味しく感じるのも、占いが当たるような気がするのも、なにか社会的事件が起こると「わしゃ知っとった」と後知恵を並べるのも「脳の罠」に落ちているためのようです。
 要するに人類は万国共通でお馬鹿なのだと言ってしまえば元も子もありませんが、そうなのでしょう。ただ、そのことを知った上で行動するというのは、そこから抜け出すための第一歩だと思います。
 著者も本書がそのために役立つことを願っているのだろうと思いますが、「今のままがいちばんいい」と考える現状維持の罠はそれ以上に強固なものなので、人間集団はやはりなかなか賢くならないのでしょう。
 相撲協会や高野連の理事たちのトラブル対応の様子を見ていると、ますますその感を強くします。公務員は言うまでもなく、民間の会社でもダメなところはみんな判で捺したように同じような行動パターンになってしまいます。
 また「コンコルドの誤謬」なんて一流企業の経営者でも陥る罠ですね。近時でも八ッ場ダムがそうです。こうなってくると住民も含めてみんなどうかしているのではないかと思えてきます。
 ここから脱するために著者が提唱しているのは、自分の考え方の弱点を正直に認め、自分の信念と対立する考え方の長所をしっかりと認めることです(335頁)。そのために、J.S.ミルのいう「悪魔の弁護人」を他ならぬ自分の為に用意することが必要となります。
 難しいことですけれど、それしかないでしょうね。それにしても、ミルのどの本にこのある意見に対してとにかく無理矢理にでも批判する「悪魔の弁護人」を置くべしという考え方が出てくるのでしょう。『自由論』でしょうか。しっかり探してみる必要がありそうです。
 翻訳文は概ね読みやすいのですが、時どき訳がわからないところが出てきます。極めつけは305頁の「弱冠21歳」という表現で、翻訳者も編集者も権威主義的思考の罠に陥っていることがよくわかります。
 そういえば何十年も昔ですが、ここの社員でいけ好かない人間に二人ほど会ったことがありますが、二人続けて鼻持ちならないエリート意識を湛えた社員に会ってしまうと、社風なのかと思えてきて、こちらも思考の罠に陥ってしまいそうです。くわばらくわばら。

(紀伊國屋書店2009年1600円+税)

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