鷲田小彌太『はじめての哲学史講義』
哲学は著者の本業なので、気合を入れているのはわかるのですが、本書は何だか肩に力が入ってしまって、いつもの闊達な感じが消えてしまっています。わかりやすく書こうとはしているのでしょうけれど、どこかで同業者の目を意識しているのかもしれません。
それでも哲学者たちの人生最期のときのことが資料としてまとめられていたりして、読者サービスは満点です。独身の哲学者には*印がついていて週刊誌的興味も惹かれます。独身者が多いのは、哲学をしていると異性に関心がなくなるからだと聞いたことがありますが、そうなのでしょうか。
本書ではさすがマルクスの理解が見事です。表現は固いですけど。
著者によると「マルクスの哲学上の最大の『発見』は、資本家的生産システムの分析を通じて、この社会が合理的に統御不能な存在である、人間の『主観』から独自な『主体』(意志)をもつ、ということを見いだしたこと」(180頁)だと言います。
つまり「人間社会は無意識な主体存在である。人間の合理的な意識(理解)や意図(プラン)を超えて進む無意識(自然)の過程である。その最高形態が資本家社会である。こういうせっかくの大発見を、マルクスは自分で抹殺してしまった」(同頁)とも言っています。
元マルクス主義者とはいえ、マルクスについてこういうことを冷静に言えるようになるまでには、相当読み込んで考えいなければなりません。さすがです。
本書ではこのほかに、ハイデガーの「脱自的実存」がニーチェの「超人」と基本的に同じだという指摘も光っています。こうしてみると、著者は信者の嫌がる正しいことを言わずには済まない性質のようで、敵が多いという前に、ハナから嫌がられているのではないかという気がしてきます。空気を読んだ上であえて確信犯的に逆らってしまうという感じでしょうか。
こういうことをしてみたい気持はよくわかりますが、くれぐれも後ろから刺されたりなどしないよう、お祈り申し上げます。
(PHP新書2002年680円税別)
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